教えてウェブのセンパイ! 文春オンラインをスタートするにあたり、編集部はオンラインメディアで活躍するさまざまなセンパイに成功の秘訣、メディアの未来像を伺ってみました。第1回はNewsPicks編集長の佐々木紀彦さん。無料の経済ニュースサイト「東洋経済オンライン」を、一躍人気オンラインメディアに成長させた佐々木さんは現在、会員制課金サービスという一見“真逆”のビジネスモデルを牽引しています。そんな佐々木さんに、オンラインメディアにとっての「オープン」と「クローズ」の違いを聞いてみました。

佐々木紀彦さん

今日読むことに意味がある 

――2012年に「東洋経済オンライン」編集長に就任して、あっという間に月間5000万ページビュー(PV)超えを果たされた佐々木さんが、わずか2年後に「NewsPicks」に移籍されたときは大いに驚きました。その後の「NewsPicks」は特集や連載が強力になった印象があり、経済誌での経験も存分に生かされているのではないかと思います。「紙メディア発のウェブメディア」としてはおそらく最後発となる「文春オンライン」に、先輩からのアドバイスをいただきたく……

 いえいえ、そんな。

ADVERTISEMENT

――まず教えていただきたいのは、「東洋経済オンライン」と「NewsPicks」の大きな違いである無料メディアと有料メディアのありかたです。

 NewsPicksに移っていちばん変わったことはリアルタイムのPVで一喜一憂することはなくなった点ですね。

 東洋経済オンラインは無料で会員登録もなし、ひたすらオープンなウェブサイトでした。それによって一気にPVが上がりましたが、収入面では広告収入に頼らなければなりません。どれだけの人の目に止まったかの勝負ですから、PV至上主義は理にかなっているんです。

 でもNewsPicksは会員制で、課金もあり、しかもアプリ利用者を中心とした作りになっていますので、クローズドな部分を持っています。その分、無料に比べてリーチする力が弱く、アプリをあまり使用されない方はコンテンツにたどり着く前に脱落してしまいます。

 こうした限られた場所で限られた人に向けての発信をしていく上で、大事なのはPVではなくDAU(Daily Active Users:一日のうちにサービスを利用したユーザーの数)なんです。一般的に、NewsPicksにかぎらず、アプリの成功の指標となるのはDAUです。一見さんばかりが増えるのはあまり歓迎されません。

――なるほど。その違いはコンテンツの方向性にどのように反映されるのですか?

 私が編集長を務めていた時代の「東洋経済オンライン」のコンテンツは雑誌的でしたが、NewsPicksはもう少し新聞寄り、「新聞と雑誌の融合」なのかなと考えています。

 雑誌寄りと新聞寄りの違いとは、今日読んだほうがいいニュースが多いかどうかということです。

 雑誌はエッジの立った記事を多く揃える反面、必ずしも今日読まなくてもいい記事もたくさんあります。一方、新聞は今読むべき鮮度の高いニュースが多いのが特徴です。

 NewsPicksでは、国内外90メディアの経済ニュースをワンストップで閲覧できます。しかもそれらのニュースに、各分野の専門家や読者(NewsPicksではピッカーと呼びます)がコメントしてくれるのです。

 

 それに加えて、雑誌的にタイムリーなテーマを面白く深掘りする記事をNewsPicksオリジナルのコンテンツとして創っています。つまり、ニュース、コメント、オリジナル記事という三段構えなのです。

 ただし、新聞寄りのコンテンツを目指すとはいえ、自分たちでは速報記事はやりません。そこはメディアのパートナーのみなさんのニュースを配信させていただく形にしています。新聞社や通信社の報道力に一朝一夕で勝てるはずもありませんので、そこはプロの方々に任せるという考え方です。