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――速報性を外部から、論説を社内からという構図で「新聞的」な情報空間を作るということですね。

 NewsPicksさえ読めば世界と日本の経済ニュースが網羅できるようにしたいと考えています。その大きな目標にはある程度近づいてきているかなと感じていますが、「NewsPicksさえ読めばいい」というだけの安心感はまだ創れていません。たとえば、新聞には100年以上のノウハウがあり、紙面を読めば読むほどよくできているなと感心します。われわれが学ぶことは山ほどあります。

 NewsPicksの最大の特徴は、読者が自分自身で注目のニュースを選び、コメントし、それをほかの読者とシェアできる点にあります。そうした独自性とニュースメディアとしての安心感の最適なバランスが生まれたときに、ようやく目標達成なのだと思っています。

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専門家が見抜ける真実、専門外が見抜ける真実

――とくに人気のあったオリジナルコンテンツはどんなものでしょうか?

 本田圭佑選手と堀江貴文さんの対談を全7回掲載しましたが、2016年ではダントツのアクセス数となりました。また、リクルートが2012年に約1000億円で買収したアメリカの求人検索サービスindeedの、出木場CEOへの1万字インタビューも大好評でした。出木場さんは日本人でありながら海外で企業を成長させている、いわば「ビジネス版海外組」です。個性的で、歯に衣着せぬ発言もする、こういう人の記事がやはり人気がありますね。

 

――スマホで1万字も読むのはなかなか大変そうな気もしますが。

 NewsPicksの場合、スマホの読者比率が9割に達しています。そのため、スマホでどうすればコンテンツが読みやすくなるかをつねに考えています。

 たとえば、写真やインフォグラフィック、スライドをほどよいタイミングで入れたり、改行を多くするなど目に優しく読みやすいコンテンツにするように気を配ってはいますが、まだ課題だらけです。NewsPicksのアプリの使い心地が他社さんより際立って優れているわけではないと思います。

 ただし、最近感じるのは、皆さん、スマホで長いものを読むことに抵抗がなくなってきているのではないかということです。スマホ空間でも長い文章を読みたい層は、潜在的には100万人以上いるのではないでしょうか。書籍を買う層と、スマホで長文を読む層はかなりダブるのではないかというのが私の仮説です。

 この数だと旧来の「マス」を狙うには十分ではないですが、課金メディアは読者層を特定層に絞りこめるので、PV稼ぎに走らなくていいのです。もしNewsPicksが無料メディアであれば、1万字の記事を5ページ分くらいに分割してPVを稼ぐでしょうが(笑)、そうしたことをしなくてすむのです。

 鈴木宗男さんの1万字インタビューも非常に読まれましたし、「トランプ後の世界」特集での冨山和彦さんの「『Gの時代』が終わり、『Lの時代』がやってきた」という論考も、8000字程度でしたがとても読まれました。短いほどいい、小分けにしたほうがいいというのは少なくともNewsPicksには当てはまりませんね。

――NewsPicksには「プロピッカー」という、専門領域をもった方々がニュースを選んでコメントするシステムがありますね。必ずしもご本人の専門分野でなくてもコメントしています。また一般ユーザーのコメントも実名制で、無名の「集合知」が称揚されていた2000年代前半のウェブ環境とは、隔世の感があります。

 専門家の人だからこそ見抜ける真実と、他業界のプロだからこそ見抜ける真実の両方があるのだと思います。コメントを実名制にしたのは半年ほど前からです。実名だから必ずしもコメントの質が高くなるとは言い切れないのですが、書き手に最低限の責任が伴うということが大事だと思っています。

 集合知の力を感じる場面もありますが、集合知を信じすぎても良いメディアは作れません。メディアが万能でないのと同様、集合知も万能ではありません。このあたり、ネット空間には過剰なまでに立場の公平を求める人が少なからずいるので、理解されにくい部分でもあるのですが。ネットの理想を信じる姿勢と、リアリズムを追求する姿勢の双方が必要ですね。

――「トランプ後の世界」は内容も書き手も多岐にわたっていて、雑誌的ですね。先ほどの冨山和彦さんのほか、国際政治学者のフランシス・フクヤマさん、社会学者の宮台真司さんまで登場しました。

 NewsPicksの編集者は、私も含めて雑誌出身者がほとんどで、アイデンティティは雑誌にあるんですね。また、読者の方にお金を払っていただくには、単発の記事では難しい面がありますが、雑誌の特集記事のように、複数の共通するテーマの記事をひとつのパッケージにして、全体にストーリーを作り出すとより読まれやすくなります。そういう意味でも雑誌に学ぶことがたくさんあります。出してから直すというやり方は、通用しなくなるんじゃないでしょうか。

 

――これはNewsPicksにも関わることですが、キュレーションメディア、バイラルメディアが著作権の軽視やファクトチェック機構を持たないことで、さまざまな問題を引き起こしています。

 それは重要な問題ですが、ここでも紙メディア出身者の編集者が多いことが生きている面はあります。言うまでもなく、紙の世界にコピペの文化はありません。コピペのほうがよっぽどリスクが高くなることを、身に沁みてわかっています。

 結局、お金を払っても読みたいと思われるものを作るには、時間がかかっても丁寧なものをつくるしかありません。

 NewsPicksでは、プロの校正を入れていますし、整理部にあたる機能も社内にあります。かつては、「ウェブの良いところはβ版のまま出してあとから修正できることだ」とよく言われましたが、そうしたやり方はもう通用しなくなるのではないでしょうか。

 逆説的にいえば、それくらいウェブメディアは人々の生活に浸透して、無視できない情報源になっているということです。

 一方でデジタルならではの悩みもあって、たとえばいつでも記事を更新できるということは、紙のように締め切りがないということですから、心身の健康を保つために十分な配慮が必要になります。きっちり休んで映画を見たり、本を読んだり、人に会ったり、新しいものをインプットしないと、結局はコンテンツも涸れてきてしまいます。

 そうした問題意識から、昨年より1週間の特集ローテーションをつくり、各人が仕事のペースをつくりやすくなるようにしています。

 いわば、週刊誌のような形です。読者にとっても月曜に新しい特集が始まり日曜に終わるサイクルのほうが生活のリズムに合うと思っています。その点でも紙に回帰していますね(笑)。