年間50万トンからわずか1000尾に……激減する富山のサクラマス
続いて訪れたのは、富山県射水市にあるサクラマスの養殖場。こちらも海沿いに……ではなくて、海沿いからは少し離れた内陸地に設けられている。お嬢サバと同じくいくつもの大きな水槽が並び、さながら“工場”のような雰囲気だ。ここはJR西日本直営ではなく、地元の養殖業者である堀岡養殖漁協が実際の養殖を行っている。
「富山って特に養殖への取り組みが遅れているんですよね。今でもベテラン漁師さんの間では『早朝から沖に出て命がけで獲ってくるのがこの仕事だ』という雰囲気があるのは事実。でも、天然資源が減少していく中で、このままでは富山の水産業そのものが壊滅してしまう。特に富山ではサクラマスの文化がありますが、そういうのもなくなってしまいます。それで、陸上養殖にチャレンジすることにしたんです」(堀岡養殖漁協の林宏育さん)
近年の天然サクラマスの漁獲高の減少は著しく、かつては年間50万トンも獲れたところ、今では年に1000尾程度しか獲れないのだとか。そうした中で、富山県射水市が陸上養殖の研究開発に取り組み、技術が確立されたところで堀岡養殖に声をかけたという。そうして同社が陸上養殖をスタートし、JR西日本と手を組むにいたった。
高校を卒業した“新卒”が入社してきた
「サクラマスは弱い魚で、水温が18℃を超えると死亡率が高くなる。そこで使っている水は水深100mから汲み上げた海水と約16mの表層水を混ぜて水温を調整しています。そうしたところも含めて細かいところまで気を使って」(堀岡養殖漁協)
そうして手間ひまかけて育てたサクラマス。昨年までは「天然物しか扱わない」と断られた店からも、JR西日本の“ブランド力”もあってか今年からは陸上養殖のマスを仕入れる動きが出てきているとか。さらに、もうひとつ大きな出来事もあった。昨年、地元の高校を卒業した若者が“新卒者”として堀岡養殖に入社したのだ。陸上養殖ならば、働き方は工場のようなものなので、不規則でもなければ命がけの漁もない。そうした点が、若者の雇用につながりやすいというメリットを生んでいる。
「地域に雇用が生まれれば若い人が町から出ずに定着します。そうなれば町も元気になりますし、将来的には鉄道の利用者確保にもつながっていく」(石川サブリーダー)
まさにJR西日本にとっても新卒社員の入社は“狙いどおり”のようだ。