2019年シーズンの中日における最大の注目は、ゴールデンルーキー・根尾昂の加入だ。
人気・実力もさることながら、大きな特徴の一つとして頭脳が明晰(めいせき)なことも忘れてはならない。大阪桐蔭高時代は父親から月20冊の書籍が寮に届き、移動中などに知見を増やしていった。
そんな「愛読書」の中でよく紹介されるのが『思考の整理学』(外山滋比古著/筑摩書房)。自ら考えること、情報の取捨選択の大切さを説く一冊で、1983年の刊行以来、累計226万部を超えるベストセラーに。「東大・京大で最も読まれた本」としても有名である。今回はこの『思考の整理学』から根尾のことを考えてみたい。
適切なタイミングまで「寝させる」
投手・野手の二刀流として注目された根尾だが、プロでは「ショート一本」を公言。高3夏の甲子園後に少し口にしたこともあったというが、仮契約という節目の場でハッキリと退路を断った。18歳で大の大人を相手に自分の主張をしっかり行うことができる。この時点で驚きだ。
さらに驚くのが、根尾は高校1、2年の時点で「将来はショート一本」に決めていたという。決心をしてから数年が経ち、ようやく表に出したのだ。
『思考の整理学』に「寝させる」という項目がある。以下、本文より引用。
ことと次第によっては、一晩では、短かすぎる場合がある。大きな問題なら、むしろ、長い間、寝かせておかないと、解決に至らない。考え出して、すぐ答の出るようなものは、たいした問題ではないのである。本当の大問題は、長い間、心の中であたためておかないと、形をなさない。(p39)
長く現役として活躍するため、自らのポジションを定めることはとても重要。ここの判断を誤ると、選手人生を断たれてしまうリスクが大きくなりかねない。恐らく根尾は周囲と自分を比べた時に、将来を見据え、より自らを輝かせるポジションを見定めたのではないか。
決心してすぐに「ショート一本で」と言わずに、「試合に出られる可能性が高いから」と投手を務め、2年時にはチーム事情で外野もこなしていた。そして然るべきタイミングで、自らの希望を伝えた。この一連の過程に根尾のクレバーさを感じる。
「朝飯前」に練習の効用を考える
入寮直後、根尾は朝早くから自主練習を行うことがファンの中で話題になった。地元局のラジオ番組でも、あるエピソードが明かされていた。
ある日、朝6時半に入浴する「朝型人間」の小笠原慎之介が、風呂上がりの根尾に遭遇。しかも、上がった後に練習すると思いきや、練習場とは逆の方向に進んでいったという。6時半に風呂から上がるということは、6時頃から入浴していて、その前にひと汗かいていたのは想像に難くない。
『思考の整理学』に「朝飯前」という項目がある。以下、本文より引用。
簡単なことだから、朝飯前なのではなく、朝の食事をするために、本来は、決して簡単でもなんでもないことが、さっさとできてしまい、いかにも簡単そうに見える。知らない人間が、それを朝飯前と呼んだというのではあるまいか。どんなことでも、朝飯前にすれば、さっさと片付く。朝の頭はそれだけ能率がいい。(p23-24)
上記の通り「スーパー朝型生活」を送るという根尾。朝の練習ではそこまで激しく体を動かすことはないと思うが、体を起こしていくと同時に、さまざまな思考を巡らせていると想像する。「朝飯前」に練習を行う最大の効用は、それこそ「思考の整理」ではないか。頭の整理をして、野球のことや日々の取材対応などに思考を巡らせている、と。
ちなみに本文内では、長い時間を「朝飯前」の状態にするため、ブランチと夕食の1日2食スタイルを推奨しているが、さすがにプロ野球選手はそうも言っていられないだろう。