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印象に残る「258」の夜

 試合で印象に残っているのは、2003年6月15日のアトランタ・ブレーブス戦でグレッグ・マダックスと対戦した時と、2004年にシーズン最多安打を記録した試合である。

©文藝春秋

 マダックスとの対戦で、私はイチローが名投手を攻略する様にすっかり興奮してしまった。

 1回裏、イチローは内野ゴロに打ち取られたのだが、スピードで内野安打を勝ち取る。とにかく、当時はスピードがケタ外れだった。

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 そして、盗塁。次に牽制で挟まれるも、二塁手のエラーで三塁へ進塁してしまう。一死後、3番ブレット・ブーンの二塁打でイチローはあっという間にホームに帰ってきた。

 イチローは脚で、マダックスから1点をもぎ取っていた。

 この一連の流れを見ていて、私はそれまでにメジャーでは見たことがない類の興奮を覚えていた。

 そしてジョージ・シスラーが持っていたシーズン257安打を超えたシーンは、いまも忘れがたい。打球は糸を引くようにセンターへと運ばれていった。

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 21世紀に登場したイチローの価値は、記録に名前を残した過去の名選手たちを単なる文字情報としてだけではなく、彩りを加えてよみがえらせたことである。

 イチローが誰かの記録に近づくたび、抜かれていく過去の選手たちのエピソードが語られ、書かれるようになった。

 モノクロの歴史の教科書が、イチローの登場によってカラーに変わった。

 何度も、何度も。

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