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「万葉集という選択は自分でも思いきったなと」新元号発表後の発言に見る安倍首相の“思い入れ”

改元後、支持率が急上昇

2019/04/05
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「漢籍を典拠としたものと違って、情景が目に浮かぶ」

安倍晋三 首相
「『令和』というのは、いままで中国の漢籍を典拠としたものと違ってですね、自然のひとつの情景が目に浮かびますね」

NHK「ニュースウォッチ9」 4月1日

 先に触れたとおり、「万葉集」の「初春の令月、気淑しく風和らぐ」は中国の『文選』を踏まえたものだということが複数の国文学者から指摘されている。たしかに「平成」からは自然の情景は感じられないが、それは漢籍か国書かは関係ない。

©iStock.com

安倍晋三 首相
「元号は、皇室の長い伝統と、国家の安泰と、国民の幸福への深い願いとともに、1400年近くに渡る我が国の歴史を紡いできました。日本人の心情に溶け込み、日本国民の精神的な一体感を支えるものとなっています」

首相官邸ホームページ 4月1日

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 安倍首相は記者会見の冒頭発言をこう締めくくった。作家の柳美里氏はこの発言が記された安倍首相のツイッターを引用する形で、「日本という国を構成しているのは、日本人だけではありません」「国民、日本人、と繰り返すことで、除けられた、弾かれたと感じる日本在住の外国人は多いはずです」と言及した(いずれも4月2日)。


 安倍首相の発言は、1989年、平成に改元した際に竹下登首相(当時)が発表した首相談話の一節「長い歴史の中で日本人の心情に溶け込み、日本国民の心理的一体感の支えにもなっております」を下敷きにしたものだ(データベース「世界と日本」国会外の演説・文書 総理大臣より)。「心理的一体感」が「精神的一体感」に変わっている。

 簡素だった竹下氏の首相談話に比べ、「国書」への強いこだわりを見せた安倍首相の発言や姿勢に柳氏が反発を感じたのかもしれない。なお、柳氏は「令和」の考案者だと報じられた国文学者の中西進氏とともに「万葉のこころを未来へ」というシンポジウムに出席している。

改元で支持率上昇?

安倍晋三 首相
「万葉集という選択は自分でもよく思いきったなと思ったけど、反応も良くてよかった」
日本経済新聞 4月3日

 新元号の公表から一夜明けた2日、安倍首相は周囲にこう語ったという。

 今回の改元について、政治ジャーナリストの泉宏氏は「安倍改元」と表現した(東洋経済オンライン 4月1日)。共同通信社が行った全国緊急電話世論調査では、73.7%が新元号に「好感が持てる」と回答。安倍内閣の支持率は3月の前回調査に比べて9.5ポイントも上昇して52.8%となった。

 新元号は広く受け入れられ、「安倍改元」は大成功だったと言えるだろう(日刊スポーツ 4月3日)。だが、これで数々の問題がチャラになったわけではない。「令和」を平和な良い時代にするには、まだまだ解決すべき問題は多い。

 

「万葉集という選択は自分でも思いきったなと」新元号発表後の発言に見る安倍首相の“思い入れ”

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