もはや“旧友”のような「扇風機」
電車内に乗り込む。平成の初め頃にはほぼ冷房車が普及していたとはいえ、天井を見上げれば「扇風機」が据え付けられていた。冷房があるのに扇風機も必要なのか?と思っていたが、杉山淳一氏のコラムによれば、非冷房車両に冷房を搭載する時に分散式の装置が付けられ、扇風機と併用されたという(注4)。一方で集中式の冷房装置とライン状のエアダクトを備えた新型車両の導入により、扇風機搭載の車両は徐々に姿を消していき、現在東京近辺では東急8500系などを残すのみである。こうした扇風機搭載の車両は日本各地に中古車両として転用され運行を続けているものもあり、旅先で出会うと旧友にバッタリ会ったような懐かしさを覚える。
そして車内の優先席。これも平成の初めには「シルバーシート」で、文字通りシルバーグレーの布地で覆われた座席であった。高齢者向けの座席だから「シルバー」だと思っていたが、実は優先席を設ける際に東海道新幹線向けの余ったシルバー色布地が用いられたことから「シルバーシート」と名付けられたという(注5)。その後JR東日本では、平成9(1997)年に妊娠中の女性などにも対象を広げる目的で「優先席」と名称を変更し、座席の色もシルバーとは限らなくなった。
まだ残っている意外なものとは
来年には新元号となり、平成に導入された新しいシステムもまた過去の遺物となるのだろうか……と思ってしまうが、一方で昭和から平成の波を越えて、まだまだ残り続けるのではないかと思われる機械を駅にて発見した。東京メトロの駅改札横に多く設置されている、日付と曜日が示される「カレンダー器」である。特に撤去する理由も見当たらず、ということで生き延びたのか。銀座線渋谷駅の改札近くにあるカレンダー器に貼られている固定資産管理票には、取得年月日が「1987/3/30」と記されていた。昭和62年である。昭和の終わりから平成を越え、曜日部分が故障してもなお手動で毎日動かされているカレンダー器。これが新しい時代にどこまで残るのか、今後も見守っていきたい。
(注1)読売新聞「次々姿消す 駅の伝言板」1996年12月5日
(注2)日刊スポーツコム「ピート小林と歩く こころの日本遺産」2010年9月12日
(注3)椎橋章夫『ICカードと自動改札』成山堂書店
(注4)マイナビニュース「鉄道トリビア(362)電車の天井にあった丸い扇風機が消えた理由」2016年7月9日
(注5)読売新聞「シルバーシート40年」2013年9月16日