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“妥協なき努力家”ホークス・東浜巨の理想と現実 故郷沖縄で何かをつかめるか

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/05/21
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 スコアボードの一回裏に「6」が灯った。

 猛攻はなお続き、2回には松田宣浩とデスパイネに連続本塁打が飛び出した。ホークスは早くも9対1と大量リード。大型連休最終日だった5月6日のバファローズ戦だ。4万近い観衆を飲み込んだヤフオクドームは楽勝ムードに序盤は大いに盛り上がった。

 しかし、マウンドに立つ東浜巨は独り違っていた。

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 そこに見たのは苦悩の表情だった。ボールが思うように操れない。調子が悪いなりに一生懸命投げているのは充分に伝わってくる。だけど、想いとボールのギャップが埋まることはなかった。

 エース級ならば楽々と長い回を投げてもらい、そのまま完投勝利をしてほしいくらいの試合展開だ。だが、4回、5回と失点してじわじわ点差が縮まっていく。結局、5回4失点で降板した。その後ブルペン陣の力投のおかげで東浜は勝利投手となった。前回から約1か月ぶりの今季2勝目だ。だが、喜びの感情が沸くはずもない。

 試合後、帰宅するところを待って取材した。マウンドで見たままの暗い表情だった。

「悔しいです。楽しみに試合を観に来てくれたファンに申し訳ない。悔しい思いしかないです」

 翌7日、出場選手登録を抹消された。

2017年に16勝を挙げて最多勝を獲得した東浜巨 ©文藝春秋

ライバル関係の千賀とともに行った合宿

 2年前に16勝で最多勝を獲得。しかし、昨季は故障もあって7勝どまり。復活を期すシーズンへ相当な覚悟を持って、オフから入念な準備を行ってきた。今年1月、筆者はそれを間近で見て感じる機会を得た。

 かれこれ15年以上もずっと、年の初めは「鴻江スポーツアカデミー(KSA)」代表の鴻江寿治(こうのえ・ひさお)氏が主宰するトレーニング合宿の運営などのお手伝いをするのがライフワークとなっている。当初は参加選手2、3名だったのが年を重ねるごとに増えて、現在では10名近いプロ野球選手たちと約1週間にわたり朝から晩まで付きっきりの生活をする。こうなったのも、やはり千賀滉大の存在が大きい。まだ背番号128だったプロ1年目のオフから現在も毎年参加する。この合宿が<史上空前の大出世><世界のSENGA>の基盤となったことを球界では有名になっているからだ。

 今年、東浜も志願して初参加をした。正直、それは驚きだった。チームメイト同士が高め合うと言えば聞こえはいいが、プロ野球は強烈な個の集まりだ。現実はそんな美しいだけの関係性ではない。それは決して不仲という意味ではない。実際に彼らは良好な関係を築いている。それでも、年齢の近い二人は誰が見ても明らかなライバル関係であり、彼らの間には一定の緊張感が必ず存在するのだ。

ロッテ種市の練習を見つめる東浜と千賀 ©田尻耕太郎

 その違和感を1月の合宿の際に率直に問うてみた。東浜は笑い飛ばしながら答えた。

「僕は千賀と一緒にやるという認識ではなくて、鴻江先生に教わりたくて参加したんです。大学時代に先生が考案した『鴻江ベルト』を使用していたし、千賀がずっと通っていて良くなっていくのも当然見ていましたから」

 千賀の“庭”に飛び込んだわけじゃない――東浜の矜持が見え隠れした。一方で千賀も、東浜が参加すると知った当初はちょっと複雑だったようだ。その緊張感があってこそのプロ野球だ。心配など無用。二人のことがとても逞しく映った。

 このKSA合宿では自分の身体のタイプを理解し、それに沿った体の使い方、つまりフォームづくりを行う。東浜は確かな手応えを得ていた。

 これは楽しみなシーズンになる。期待という表現を超えて、確信に近いものを感じていた。

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