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“妥協なき努力家”ホークス・東浜巨の理想と現実 故郷沖縄で何かをつかめるか

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/05/21
note

良かれと思ったことがマイナスに働く“可能性”

 しかし、現実は違っている。

 ここまで6試合に先発して2勝1敗、防御率6.16。故障に泣いた昨シーズンでも103投球回で91被安打だったのが、今季はイニング数を上回る安打を打たれている。また、昨季32個だった与四球が今季は30.2回なのにもう17個に達している。

 オープン戦でも防御率6.75だった。宮崎キャンプの頃から、状態はあまり良くないように見えていた。

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 その原因について、思い当たるフシはある。自主トレが終わってしばらくして、彼は「すごくいい勉強になった。ただ、全てを取り入れるのではなく、その中で東浜流のような形を作っていきたい」といった趣旨のことを話していた。

 東浜はとにかく妥協なき努力家だ。プロ1年目、真夏の雁の巣球場で毎日のように、そして他の誰より長い距離を走って汗だくな顔を見せていたのは忘れない。自分のレベルアップに繋がると思うことに対して、何を惜しむことなく実直に取り組む。だからKSA合宿だけでなく色んなことを見て、学んで、チャレンジしてきた。

 しかし、それが結果的にマイナスに働いたのではないかと想像する。

 例え話だが、料理をする時にあらゆる最高級食材を集めたとしよう。牛フィレ肉にフォアグラ、キャビア、大トロ、希少な有機野菜にマンゴー、ウニとイクラ……。では、最高の食材を全部混ぜて調理をしたら最高の料理が完成するのか? おそらく美味しくないと思う。

 結果的に現在の東浜は、以前の投げ方に戻しているように映る。ただ、一度壊した形は、なかなか元には戻らない。それが苦戦の原因になっていると考える。

 誤解をしてほしくないのは、東浜の取り組みを「失敗」と断じているわけではない。そもそも人生の挑戦に、最初から答えなんてない。何だってやってみなければ分からないのだから、チャレンジするこの志そのものを尊敬するべきだと思っている。

 だから、こんな指摘をすること自体が余計なお世話なのは筆者も分かっているつもりだ。しかし、良かれと思ったことがマイナスに働く“可能性”(あくまで可能性の一つ)があるとの事例を記録し、次世代に伝えることが今後の発展に繋がる。文春野球コラムはじつはプロ野球選手も目を通すと聞く。球界には「記録」として残されているものが意外と少ない。選手が進む方向を考える時の指標になれば……。だから東浜への非礼は承知のうえで、書かせて頂くことにした。

自主トレで投球練習をする東浜 ©田尻耕太郎

故郷沖縄の舞台で再スタート

 21日、ホークスは沖縄セルラースタジアムで西武ライオンズと戦う。東浜は再び一軍に戻ってくる。そして先発のマウンドに上がる。工藤公康監督は故郷凱旋登板という特別な舞台を用意してくれた。芯が強く、実直な男がその心意気を感じないはずがない。

 沖縄の人は強い郷土愛を持つ。東浜もそうだ。ルーキーの頃には、西戸崎寮で新生活を始めるにあたり「そばにあるだけで心強いから」と大きなシーサーを持ち込んだ。現在は、練習で使用するグラブにシーサーをかたどったマークを刺繍している。

「沖縄の人たちはキャンプやオープン戦でプロ野球を見る機会はあるけど、公式戦はまた特別だと思う。スタンドでお酒を酌み交わしながら楽しむ野球って最高じゃないですか。楽しみにしていると思います」

 沖縄は16日にもう梅雨入りした。それでも平年よりも7日遅いという。

 2019年、梅雨、沖縄。

 とりあえず、苦しみの旅はもう終わった。一軍に帰ってくるのだから、そのはずだと信じている。

 愛する沖縄の人たちの前で、愛してくれる沖縄の人たちの為に必死に投げる。東浜巨はここからまた新たな野球人生の旅をスタートさせる。

 そして、沖縄開催でもう一つ言いたいことがある。工藤監督、今年こそは嘉弥真新也投手をマウンドに送り出してください。石垣島出身である彼の雄姿を楽しみにしている沖縄のファンがたくさんいるのだから。

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