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ファイターズ・西川遥輝“アンブレラハルキ”誕生 プロ野球ってやっぱ最高だな

文春野球コラム ペナントレース2019

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 今週はアンブレラハルキである。もう、それに尽きる。熊本、鹿児島と続いた「雨の地方球場」シリーズ、首位ソフトバンクに迫るつもりがあっさり連敗してしまった。まぁ、5月の時点で首位攻防戦でもないが、何とか一つくらいは勝っておきたかったのだ。それでも不思議と精神的なダメージがない。むしろほっこりする、好ましい思い出になっている。それは何でかというとアンブレラハルキだ。試合には連敗したが、ファイターズはほっこり度合いで勝っている(?)。

 それは列島各地に被害をもたらした季節外れの大雨のはしりだった。屋久島では「50年に一度の大雨」で260人以上の人が下山できず孤立するという事態に見舞われた。折しも福岡ソフトバンクホークスは福岡移転30周年を記念し、福岡を皮切りに長崎、北九州、熊本、鹿児島で「WE=KYUSYU」デーを開催しているところだった。開催日程を組む時点で誰も大雨など想像しない。5月といえば時候のあいさつだって「新緑の候」「薫風の候」だ。

 まさかそこにアンブレラハルキが出現するとはねぇ。

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「アンブレラハルキ」こと西川遥輝 ©文藝春秋

傘を差してファンと談笑する西川遥輝

 18日の熊本はアクシデントの連続だった。雨天のため、試合前の練習が行えず、付近の施設を借りたのだが、リブワーク藤崎台球場へ向かう道が大渋滞、到着がぎりぎりになり、試合開始が13分遅れている。先発投手は千賀滉大、上沢直之の両エースだ。千賀は素晴らしい出来だった。上沢も立ち上がりこそ不安定だったが、しっかりまとめた。さすがリーグを代表する右腕の対決だ。1点を争う好ゲームの様相だった。雨だけに「バットも湿りがち」ってやつだ。

 先手を取ったのはファイターズのほうだった。4回表、王柏融が勝負強さを見せ、しぶとくタイムリーを放つ。雨天試合はいつコールドになるかわからない。とにかく先手必勝がセオリーだ。その裏、ソフトバンクも得点圏に走者を進める。2死ながらランナー1、2塁。バッターは牧原大成だった。プロフィールを見ると福岡県久留米市出身だ。田主丸中学から熊本の城北高へ進学している。僕は久留米の櫛原中学だったから田主丸中学は部活でよく知っている。へぇ、懐かしいなぁと思った瞬間、その牧原が自打球を膝に当てたのだった。

 自打球は怖い。下手すれば骨折の可能性がある。牧原は治療のため、ベンチに下がる。雨の降りしきるなか、ファイターズナインはポジションについたまま、牧原が戻ってくるのを待っていた。

 時間にすると約3分間だそうだ。藤崎台球場のファンがそこここで傘を差した。ちゃんとマナーをわきまえていて、試合中は(後ろの人の視界を遮らないように)傘を閉じ、雨ガッパで観戦していたのだ。このときは牧原の治療で試合が止まり、その間、傘を広げた。と、TVカメラがセンターの西川遥輝を捉えた。何と西川は傘を差して、外野の観客と談笑している。傘を貸してくれたのはホークスファンの中年女性のようだ。透明の雨ガッパの下に「WE=KYUSYU」ユニが見える。一体、何を話し込んでいるんだろう。付近のホークスファンがみんな笑っている。拍手まで起きている。

 これがアンブレラハルキだ。試合中、敵地のファンに傘を借りてすっかり打ち解けていた。ファイターズはSHINJOの頃から、試合が中断したら「外野会議」と相場が決まっている。3人集まって片膝立てるポーズを読者もご覧になったことがあるだろう。それがこの日は会議も何も、(傘を差した)西川は完全にセンターのフェンス際を向いている。何をやってるのか。

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