昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

ゲームセットと思ったらまだだった!……「子どもがまだ食べてるでしょうが」リクエストの味わい

文春野球コラム ペナントレース2019

 時計の針を平成に戻そう。といってもほんの数日前の出来事だ。本拠地札幌のGWシリーズ第2戦、今季、安定感バツグンの有原航平がミランダに投げ勝ち、4勝目(7回被安打2、無失点)を挙げた試合だ。中島卓也ファンの自分としては4回裏1死満塁のチャンスにレフトへ先制タイムリー、というたまらない展開だった。中島卓也はバッティング良くなってると思うのだ。思うのだが打率はあんまり変わっていない。この良くなってる気がしてしょうがない感じは何だろう。欲目だろうか。

 このソフトバンク5回戦、興味深い出来事があった。4対0でリードした9回表、ホークスの攻撃だ。マウンドにはシーズン序盤、クローザーを任されている秋吉亮。秋吉の投球を見ているとパナソニックの先輩、建山義紀を思い出すのだ。高田知季ショートゴロ、釜元豪四球、三森大貴三振で2死1塁だった。続く熱男こと、松田宣浩は1ストライクからの2球目をセカンドゴロ。これを渡邉諒が軽快にさばいて1塁送球が、逸れた(!)。

 しかし、ファーストはゴールデングラブの常連、中田翔だった。せいいっぱい足を伸ばして捕球し、尻もちをつく。塁審はアウトの宣告。よっしゃ、ゲームセットだ! ファイターズファンがいっせいにジェット風船を宙に放った。ピュ〜、ピュ〜、ピュ〜〜。

 と思ったらこれがゲームセットではなかったのだ。ホークスベンチの工藤公康監督が両手で四角をつくる。リクエストだ。何と工藤さんはラストアウトの成否にリクエストを使ってきた。

声援に応える有原航平と中島卓也

ジェット風船が散らばった中でのリプレイ検証

 GAORA実況の近藤祐司さんはしきりにグラウンドに散らばったジェット風船を気にしている。これは試合中ということでいったんかたづけるべきか。ダブル解説のお二方は意見が割れる。稲田直人氏は「これは今のうちに拾っとかないといけないですね」、森本稀哲氏は「リプレイ検証してからでもいいんじゃないですか」。外野フェンスの出入口が開きかけ、ヒーローインタビューのお立ち台車やウインニングファイアーワークス準備の係員さんがちょろっと出て、あわてて引っ込む。内野フェンスの扉の奥では、飛び出しかけたファイターズガールがストップをかけられる。

 選手はもちろんグラウンドに残った。ビミョーな時間だ。終わった勝ったと思ったら終わってなかった。古畑任三郎のテーマがかかり、場内のビジョンに何度も中田の捕球シーンと打者走者松田の懸命な駆け込みが映る。どうやら中田は捕球のためにいったん足を離し、その後、つま先を伸ばして踏み直したようだ。

 タイミングはアウトに見える。スタンドのファンから拍手が巻き起こる。アウトかセーフか。ほどなくして白井球審がおごそかにアウトを宣告した。今度こそゲームセット。

 僕はこれを「子どもがまだ食べてるでしょうが」リクエストと名付けたい。試合の行われた北海道にちなんで『北の国から』の黒板五郎だ。閉店間際のラーメン屋で無遠慮に丼を下げようとした店員に対し、五郎が叫ぶ。子どもがまだ食べてる途中でしょうが。野球のラストアウトというのは言ってみれば閉店間際だろう。空気が場を支配する。ホームチームが勝っていれば尚のことだ。あと1人! あと1人! MLBなら手拍子が始まる。終われ終われ、早く終われ。

 そういうなか松田宣浩はセカンドゴロを打ったのだ。塁審のアウト宣告で丼が下げられようとした。工藤監督は敢然とリクエストを要求する。空気の支配に抗う。松田がまだセーフでしょうが。釜元松田で1、2塁でしょうが。