かつて、『スクール☆ウォーズ』というドラマがあった
古い話で恐縮だが、今から35年も前のこと。1984(昭和59)年から、翌85年にかけて、『スクール☆ウォーズ~泣き虫先生の7年戦争~』というドラマがTBS系列で放送されていた。制作は「あの大映」。何が「あの」なのかはここでは詳述しないけれど、わかる人にはそのニュアンスはよく伝わるはずだ。
一応、京都市立伏見工業高校ラグビー部が全国制覇を果たした事実を基にはしているものの、物語はほぼフィクションで過剰な演出と過激なストーリー展開がこのドラマのウリで、不治の病に侵されたり、交通事故に遭ったり、やくざと闘ったりして、登場人物がドラマの途中で何人も亡くなるなど、話を盛り上げるためにはやりたい放題。まさに「あの大映」の真骨頂だった。簡単にストーリーを説明すれば、「校内暴力によって荒廃した川浜高校の弱小ラグビー部に、元日本代表である一人の熱血教師・滝沢賢治が現れ、さまざまなトラブルに直面しつつも、愛と友情と努力と涙で、それらをクリアしながら、全国制覇を果たす」という物語である。熱血漢の滝沢先生を演じたのは山下真司。「川浜」とは架空の地名だけれど、「川崎」と「横浜」をミックスしたものだろう。
当時でさえ「時代遅れの超スポ根ドラマだ」と揶揄されていたけれど、『スチュワーデス物語』や『不良少女と呼ばれて』を制作していた「あの大映」だから仕方がない。多くの視聴者は「さすがの大映クオリティ!」と思いながら、夢中でテレビの前に座っていたものだった。視聴率は回を追うごとに急上昇。放送終了直後に再放送が始まると、ますます人気に火が付き、大きな話題となった。当時、僕は中学2年生だったが、この番組を見ていなければ友だちとの話題に乗り遅れるほどだった。
「お前たちはゼロの人間か?」
名場面、名セリフはいくらでもあるのだが、僕は真っ先に第8話「愛すればこそ」を思い出す。県大会初戦の相手は全国大会常連の強豪・相模一高。ようやくチームとして歩み出したばかりの川浜高校にとって、まったく歯が立たない相手である。部員たちのモチベーションはゼロで、試合前から「早いとこ試合を終わらせて、遊びに行こうぜ」的なヤル気のなさ。最初から試合を投げ出してしまっているのである。そして、戦前の予想通り、川浜高校は109対0という大惨敗を喫するのだ。
試合終了後、選手たちは汗ひとつかいていない。泥にまみれてもいない。悔しさを感じるどころか、「やれやれ、やっと終わってくれたぜ」「あぁ、負けた、負けた」と何事もなかったかのような表情で談笑しているのである。ここで、滝沢先生の怒りが爆発。2時間以上の大説教の後に、「オレは今からお前たちを殴る!」と宣言した上で、部員たちに対してグーパンチを繰り出すのである。現代では大問題となる場面だが、当時としてもやはり過激で過剰な演出だった。このとき、滝沢先生は言った。
「お前たち、悔しくないのか! 相手は同じ高校生だぞ!」
さらに、109対0と大敗したことについても言及、部員たちに問いかける。
「お前たちはゼロか? ゼロの人間なのか? 何をやるのもいい加減にして、一生ゼロのまま終わるのか? それでいいのか?」
こうした滝沢先生の熱い思いは部員たちにもきちんと伝わった。ある部員は「悔しいです!」と泣き叫び、ある者は「相模一高に勝ちたいです!」と言い、「今までは負けるのが当たり前だと思ってたけど、ニヤついて誤魔化してたけど、今は悔しいです!」と号泣するのである。そして、翌日からは自発的に練習を行うようになる……。これが、第8話「愛すればこそ」の名場面であり、シリーズ屈指の名シーンなのだ。