世界の舞台に伊調馨が帰ってきた。
4月23日~28日に中国の西安で行われたレスリング・アジア選手権、伊調は五輪4連覇を果たしたリオオリンピック以来、2年8カ月ぶりに国際大会のマットへ上がった。
しかし彼女を待ち受けていたのは、以前より確実にレベルアップしているアジアのレスリングと、若手の著しい台頭による「想像以上の苦戦」だった。
およそ半年前の2018年10月、伊調は全日本女子オープン選手権で優勝し、本格復帰すると、同年12月には全日本選手権に出場し、リオ五輪63kg級金メダリストの川井梨紗子と対戦。予選リーグ初戦では川井に敗れたものの、決勝で再戦すると、残り10秒で大逆転し3年ぶりの優勝を果たした。そして試合後、伊調は東京五輪を目指すことを正式に宣言した。
真剣勝負の舞台から長らく遠ざかっていた伊調にとって、東京五輪に向けて動き出した今、実戦で感覚を取り戻していく作業は最も重要になる。今回のアジア選手権は、海外の選手と試合ができ、経験を積むには絶好の大会だった。
準決勝は想像もできない展開に
初戦、やや硬さの見られた伊調はテクニカルフォールで圧勝。そのまま決勝まで駆け上がるかと思われた。しかし迎えた準決勝、2018年アジア大会王者である北朝鮮のチョン・ミョンスク相手に、かつてない敗戦を喫したのである。
試合開始早々、相手に正面から両足タックルを入られると、そのままバックを取られ失点。その後も相手に何度も足元を狙われ続け、片足タックルを受けて倒されローリングされるなど、今まで守備には絶対的な実力があった彼女が、防戦一方となり第1ピリオドを終えた時点で1−7という大差をつけられる想像もできない展開となった。第2ピリオドでは何とか反撃に出るも追いつけず。試合は3点差で敗北した。
試合後、大勢の報道陣に囲まれた伊調は「対応できなかった。自分の動きもできなかったと思います」と唇をかんだ。
自身でも課題としていた腰の高さを、ことごとく相手に付け込まれた。わかってはいても反応できなかった自分に不甲斐無さを感じていた伊調は、悔しさを滲ませながらこう話した。
「相手は若い選手なので、前半からどんどん攻撃してくるというのもわかっていたし、タックルに入ってくるということも頭に入れていたんですけど、自分の反応が鈍かったです。今回試合をやって、改めて自分の課題を実感しましたし、自分が攻めきれない部分だったり、ディフェンスの弱さだったりというのがはっきりしたのも、全てが経験だと思っているので、これを今後に生かしていければ良いと思っています」