若手ヒットメーカーたちが口をそろえる「風通しの良さ」
「TBSってクレイジーな局になってきたよね」
松本人志が賞賛の意味を込めてそのように語るTBSのバラエティ。
その要因のひとつは前回書いたとおり“合田イズム”が浸透した制作者現場だが、もうひとつの要因は「編成」だろう。
テレビ局の編成部といえば、その名のとおり、どの番組をどの時間帯に放送するかを編成する部署である。
したがって、視聴率をいかに少しでも獲るかを考えるのが第一だ。もちろんTBSの編成もそれを第一目標としているだろう。だが、どこか一味違う“攻め”の姿勢が窺える。
たとえば、一昨年のお正月にはパイロット版の『クレイジージャーニー』を放送。正月からエグい映像で強烈なインパクトを与えた。そして同年にまさかのレギュラー化。結果、ギャラクシー賞を獲得する人気番組に成長した。
昨年の元日にはゴールデンタイムで『芸人キャノンボール』を放送。さらに8月にも第2弾が。その日は、『水曜日のダウンタウン』も放送され、実に4時間あまり、「地獄の軍団」などと言われる藤井健太郎演出の番組がゴールデンタイムを“独占”したのだ。驚愕の編成だ。
狂っている。
藤井は『芸人キャノンボール』の元日放送について「ここで攻めているのは決して僕ではなく、元日のゴールデンタイムにこの番組を流すジャッジをしたTBSの編成だと思います」(『悪意とこだわりの演出術』)と綴っている。
『クレイジージャーニー』の横井雄一郎は「こういう企画が通るんだ、チャンスがあるんだっていう風通しの良さは感じます」(『AERA』16年5月23日)と語り、『万年B組ヒムケン先生』の江藤俊久もそんな風通しの良さを「感じます、感じますね! まあまあ楽しみな局ですよね」(「エキレビ!」2016年5月30日)と言っている。そもそも『ヒムケン先生』は「とにかく大笑いできる楽しい番組を」という編成部からの要望があって作られた番組だという。
「面白さ」をちゃんと評価する「編成部」
そんないまの編成部の体質をよくあらわすエピソードがある。
昨年始まった『ヒムケン先生』の初回、裏に『テラスハウス』があることもあって、女性視聴率は散々な数字だったという。普通であれば、もっと女性に見てもらえるような工夫をしなさいなどと言われるだろう。
しかし、江藤プロデューサーが編成部に言われた言葉は「個性的な番組でなによりです」。
逆に褒められてしまったのだ(同前)。
『芸人キャノンボール』の企画が決まってからも、藤井は編成部から「ここは視聴率が悪くても、内容でちゃんと面白いモノを出すことが大事だから」「元日の目立つ場所で格好の悪い番組は出したくないからな」と言われたという(『悪意とこだわりの演出術』より)。
「面白さ」をちゃんと評価してくれているのだ。
さらに積極的に若手制作者を起用してきた。
結果、藤井健太郎、『マツコの知らない世界』の坂田栄治、『金スマ』の竹永典弘、『プレバト!!』、『林先生が驚く 初耳学!』の水野雅之(MBS)、『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』の畠山渉、『クレイジージャーニー』の横井雄一郎と、40代前半~30代の若手・中堅の制作者たちが並ぶ。健全な世代交代が進み、彼らの世代がいまのTBSバラエティの柱となっている。
もっとも重視しているのは「見終わり感」
そうした“攻め”の姿勢を出している一方で、しっかり堅実な戦略も練られている。
社内では「マーケティング機能強化プロジェクト」を立ち上げた。
編成部長の菊野浩樹はTBSには「良いものを作ってるんだからみてください」という“職人的”な制作者が多かったと振り返りつつ、このプロジェクトによって「意識がより"視聴者ファースト"に変革してきている」と言う(「マイナビニュース」2016年6月28日)。
そして、現在もっとも重視しているのは「見終わり感」だという。
番組を見終わった後、「見てよかった」と思ってもらえる「視聴者満足度」を独自に調査し、それを評価の基準のひとつにしているのだ。
仮に1度、高視聴率を取ったとしても、見ていてストレスが溜まったり、嫌な気持ちにさせるような番組では次の回に繋がらない。
「例えばCMの入れ方にしてもそうです。今までは何回もCMを入れて引っ張って、引っ張って、結局次週の予告だけだった、なんてこともありましたが、そういうお客さんをガッカリさせることはもうやめようと。テロップの出し方一つにまで視聴者が見やすいように気を配っています」(『週刊現代』2015年12月19日号)
いまはSNSなど番組を見ての感想を他人に伝えたりする共有するツールが数多くある。また、見逃し配信などで後から見ることの出来る番組も増えてきた。だからこそ、「見終わり感」が良く、満足度の高い番組がより求められる時代になってきたのだ。
“攻め”の姿勢と、若手の積極的な登用、そして満足度を重視した「視聴者ファースト」の意識。
そうした風通しの良さを武器にTBSは「絶対王者」日本テレビに立ち向かおうとしている。
かつて王者として君臨した“勝者のメンタリティ”と、どん底を経験し地べたを這った“敗者の屈辱”。その両方を知るTBSの底力が、日本テレビにとって脅威になる日も近いのではないか。
そしてそれはより面白い番組を見たいと願うテレビっ子にとって大きな希望のひとつだ。