メンバー全員の笑顔が見たかった
メンバーのなかで最年少のジョングクが、直前にケガをして、椅子に座ったままコンサートに出演した。踊れなくてもつとめて明るくふるまっていたのに、アンコールのパフォーマンス中に顔をふせて泣きだしてしまった末っ子の姿が印象に残っていた。今度こそはと思っているはずだから現場で応援したかったのだ。DVDには6人のヒョン(兄)がそれぞれのやりかたでジョングクを支える場面が収録されている。全員の笑顔が見たいとも思った。
約12時間のフライトを経て公演初日。天気は快晴で、半袖でも暑かった。なにしろ右も左もわからない街なので、早めにホテルを出た。幸いにも大通りを1回曲がるだけで地下鉄の駅にたどり着けた。ガイドブックによればOysterカードというスイカみたいなプリペイドカードが便利らしいが買い方がわからない。Googleで検索しながら20分くらいかけてようやく購入できた。宿泊先があるベイカー・ストリートからスタジアム最寄りのウェンブリー・パークまでは乗換なしで行けた。
ウェンブリー・パーク駅からスタジアムへ向かう道のあちこちにARMYがいた。ひときわ目立っていたのは、「Boy with Luv」のダンスをカバーしていたグループだ。キャラクターグッズのカチューシャをつけた小学生くらいの女の子から、MVの衣装にそっくりなピンクのスーツを着た大人の女性まで、年齢もファッションもバラバラな人たちがノリノリで踊って、周りで観ているARMYは一緒に歌って盛り上がっていた。
会場の入り口は自動改札みたいな感じ。チケットをセンサーがあるらしい場所に置いても何も反応しない。近くにスタッフもいないし、困っていたところ、後ろに並んでいた親切なARMYが「向きが逆だよ」とジェスチャーで教えてくれた。
推しが生きて動いているだけでキャパオーバー
席についたら、流れているMVにあわせて大合唱している人々が。どこから来たかは関係なく韓国語の曲を歌っている。わたしの斜め前に座っていた2人組が突然立ち上がって踊りだしたときは喝采が起こった。ただ歌いたいから歌い、踊りたいから踊っているという感じで、他人の目なんて誰も気にしていないのが心地いい。
開演時間の19時45分になっても空は明るいままだ。オープニングの「Dionysus」はメインステージの奥のほうで踊るため、わたしがいるサイドのスタンド席からは見えない。美しい白い衣装をまとったBTSがスクリーンに映し出される。7人とも開始早々汗だくだ。ジンは金色だった髪を紫色に染めている。たとえスクリーンでも、ライブのほうが肌の質感など生っぽく見えると感じたのは気のせいだろうか。
開放感のある野外で力強い歌声とキレッキレのダンスを堪能する。テンションが上がらないわけがない。大体いつもコンサートではこのあたりから記憶がおぼろげになる。推しが生きて動いているだけでオタクにとってはキャパオーバーなのである。
ダイナミックに水を操るJ-HOPE、空を飛びながら爽やかに歌うジョングク、幻想的なシャボン玉の中から現れるジミン、魔法のように輝くハートを出してみせるRM、ベッドに寝転んで妖艶なV、夕暮れの街を背景に軽やかに踊るSUGA、光のエフェクトの前でじっくり歌い上げるジン……。それぞれのソロステージは凝った演出に引き込まれた。