ファンを最優先するBTSの魅力
はじめはちょっと硬いようにも見えたメンバーの表情が、ARMYの大歓声を聞いているうちにどんどん柔らかく幸せそうに変わっていく。あっという間に最後のコメント。ジンがフレディ・マーキュリーの「エーオ!」というコールを真似をしてくれてうれしい。どこの国の人間だろうが音楽は分け隔てせずに受け入れる。RMの“We ,and you guys,just broke the wall”という言葉に実感がこもっていた。いつしか日は落ちていて、アミボムの光が星みたいにきれいだった。
コンサート終了後、SUGAはホテルの部屋でライブ配信を行った。疲れているだろうに、ARMYに話したいことがあったらしい。何よりもファンを最優先していることを行動で示すところはBTSの大きな魅力のひとつだ。
2日目。サプライズは大成功
そして2日目。前日よりは涼しかった。待ち時間にRMのコメントを思い出し、なけなしのコミュ力と英語力を総動員して知らないARMYに声をかけてみた。友人に教えてもらった“Who is your bias? (あなたの推しは誰?)”を使えて満足。ミャンマーから来たユンギペン(SUGAファン)だった。席は離れていたので途中で別れたが、しばらく楽しくおしゃべりできた。
両隣の席にいたのは中国のARMYとどこかラテン系の国のARMYだった。ふたりとも連れがいたし挨拶くらいしかしなかったが、開演前のMV上映中にやっていた掛け声が完璧なので思わず「すごい!」と日本語で絶賛したらにっこり笑ってくれた。好きな曲がかかると顔を見合わせてワーキャー騒いだ。
この日は、アンコール前にサプライズ企画の告知があった。「ARMY SING」のサインがスクリーンにあらわれたら「Young Forever」のサビを合唱しようというものだ。客席は沸いた。BTSの代表作「花様年華」のエピローグを飾り、メンバーの思い入れも強いことで知られている曲だから。
サプライズの結果は大成功。ARMYの歌声を聞いたジョングクは泣き崩れた。去年のロンドンの悔し泣きとは異なる幸福感に満ちた涙だ。苦悩していたときARMYが「Young Forever」を歌う動画に救われたというジミンも泣いていたし、他のメンバーも目を潤ませていた。泣きやまないジョングクとジミンを慰めるJ-HOPEとVの表情が優しかった。
ウェンブリーにかぎらず、彼らは一つひとつの公演に全力を尽くす。「Young Forever」の歌詞のように、いつかは終わる青春、今日という時間を音楽によって永遠に忘れられない思い出にするために、走り続けているのだろう。
……と感動しながらホテルに帰り着いたら、さっきまで号泣していたジョングクがライブ配信でなぜか日本のさきいかを食べていた。着替えもせずARMYに心境を伝えてくれるのはありがたいが、さきいかのおかげで笑ってしまう。
どんなに大きな舞台に立って持ち上げられても、親しみやすさを失わないBTSが大好きだ。これからも追いかけたい。
写真=紫野あみ