新快速という列車の宿命が生んだAシート
新快速という列車種別は京阪神圏と中京圏に存在する。国鉄時代からの伝統的な列車種別で、大枠では普通列車に分類される。私鉄は急行、特急と称して無料の高速列車を走らせているけれど、国鉄とそれを継承したJRでは、急行には急行料金、特急には特急料金が設定されているから、普通列車の速達タイプに急行や特急という種別名は使えない。そこで考え出された種別名が「快速」だ。
そして、京阪神圏と中京圏の主要都市間は併走する私鉄と競合関係にある。中京圏は豊橋~名古屋~岐阜間で名古屋鉄道がピッタリ寄り添う。京阪神はさらに競合が激しく、京都~大阪間は阪急京都線と京阪電鉄に挟まれ、大阪~神戸間は阪急神戸線と阪神電鉄に挟まれている。神戸~姫路間は山陽電鉄が並行する。官営鉄道時代から、各社ともスピード、運賃、座席など接客面の競争を続けてきた。
そんな背景で1970年に登場した列車が国鉄の「新快速」だ。従来の快速より停車駅数を減らして所要時間を短縮し、車両は普通電車よりワンランク上の急行電車を使用した。1979年に新快速専用形式として、流線型の先頭車を備え、設計最高速度120km/hの117系電車が投入された。もうほとんど急行、だけど急行料金不要という超おトク列車の誕生だ。
当時は、新快速があまりにも速く、気動車特急などが追い越されるという状況もあった。とんだ下剋上で、それだけ京阪神の競争は激烈だったという。
京阪電車の「プレミアムカー」も500円
京阪神の熾烈な競争は現在も続いている。いまのところ、スピードはJRが速く、運賃は大手私鉄が安いという状況で落ち着いている。JRは2005年の尼崎脱線事故の遠因がスピード競争にあったという反省から、最高速度向上には踏みとどまっている。おそらく、それは並行する大手私鉄も同様ではないか。
こうした経緯を振り返ると、2019年3月にJR西日本が新快速に「Aシート」を導入した理由も、速度や運賃の競争からサービスレベルの競争へ舵を切ったからだと推察できる。Aシートに先がけて、京阪電車は2017年8月から特急電車に「プレミアムカー」を導入した。京阪特急の普通車は2人掛けクロスシートで、2階建て車両まで連結しているにもかかわらず、3列シートのプレミアムカーを導入した。こちらも座席指定料金は500円で好評だ。
京阪特急プレミアムカーはもちろんJR西日本も意識したことだろう。ただし、3列シートまでは踏み切れなかったようだ。3列シートは在来線特急のグリーン車と同等になる、新幹線でさえグリーン車は4列シートだ。グリーン車でもない普通列車に3列シートは設定できない。かつての過酷な競争時代なら、そんな思い切った設定もあっただろうけれど。