慶應3年1月5日、西暦でいえば1867年2月9日、江戸牛込馬場下横町(現在の東京都新宿区喜久井町)の名主・夏目直克に五男が生まれた。それが庚申の日の申の刻(午後4時頃)。昔から申の日・申の刻に生まれた子供は、よくいけば大変な出世をするが、悪ければ大泥棒になる恐れがあるとされ、これを防ぐには金偏のついた字を名前に冠せばいいとの言い伝えから、夏目家の五男にも「金之助」の名がつけられた(松岡譲『漱石・人とその文学』潮文閣)。この赤ん坊がのちの文豪・夏目漱石になろうとは、もちろんまだ誰も知らない。
生誕150年を迎え、9月24日には新宿区立漱石山房記念館の開館が予定されるなど、さまざまな関連事業が進行中だ。没後100年だった昨年には、NHKの総合テレビで『夏目漱石の妻』、BSプレミアムで『漱石悶々』とドラマがあいついで放送された。
『夏目漱石の妻』では漱石夫妻に長谷川博己と尾野真千子が扮し、『漱石悶々』では漱石を豊川悦司、その恋人を宮沢りえがそれぞれ演じている。ちなみに宮沢りえは2005年放送のドラマ『夏目家の食卓』(TBS)では漱石の妻・鏡子役だった。このとき漱石役を勤めたのは本木雅弘だが、本木は1998年にもトヨタ自動車のCMで漱石に扮していた。
ほかにも漱石の登場するドラマを振り返ってみると、以下のような作品と演じた俳優があげられる。
・『夏目家どろぼう綺談』(テレビ朝日、2016年):桐谷健太
・『坂の上の雲』(NHK総合、2009~11年):小澤征悦
・NHKスペシャル『新藤兼人が読む正岡子規の病牀六尺』(1994年):風間杜夫
・『子規からの手紙』(NHK BS2、1991年):平田満
・NHK特集『エピソードドラマ 漱石には千円札がよく似合う』(1984年):伊丹十三
このうち『坂の上の雲』『新藤兼人が読む~』『子規からの手紙』では、漱石は俳人・歌人の正岡子規の親友として登場する(子規を演じたのはそれぞれ香川照之、木場勝己、堤真一)。『漱石には千円札がよく似合う』はタイトルどおり、漱石の肖像が採用された千円札の発行にあわせて放送された。
千円札といえば、2006年放送の昼ドラ『吾輩は主婦である』(TBS)は、斉藤由貴演じる現代の主婦に“旧千円札の漱石の魂”が宿るというぶっ飛んだものだった。宮藤官九郎脚本のこのドラマでは、本田博太郎が漱石の声をあてていたのを思い出す。