昔の恋人から借りたまま返しそびれた本。わざわざ返すためだけに会うのも気まずいし、送ってしまったらイイのだけど、何故かそれも億劫で本棚でずっと寝かせてしまい、3年くらいたったらもう今更送るわけにもいかない。人の本だから捨てるのも気が引けるし、結局秘密の思い出とともに本棚に眠る……。

©犬山紙子

 とまあ、ロマンチックに書いたとて借りパクですね。借りパクはいけないことではありますが、どの家にも故意ではなく借りパクしてしまった本というのはあるんじゃないでしょうか。そして、借りパクされた本も。された本って基本忘れちゃうのですが(まあ忘れてるくらいだからどうでも良い本だったのだろう)、高校生の時に買った思い出の本なんかはジトーっと覚えています。でも「あの本返して」っていう方が借りパクするほうよりケチくさいこのイメージ、なんなんでしょうね。

 遡ること3年前、友人宅に行った時のこと。野球に興味のない女友達だったのですが、本棚に野球の本が入っているわけですよ。私のために料理をしている彼女の背中に「仕事か何かに使ったの?」と聞いたら「あ、それ元彼から借りてそのままの本」との答えが。ははーん、そうか。本棚にその人が本来買わないであろう違和感のある本が刺さっていた場合、これは借りパク本の可能性が高いのではないかと。ちなみに「1Pも読まなかったわ」と彼女(じゃあ返したれよ)。

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 それ以来人の家に行くと違和感のある本を見つけては借りパク本かどうかを聞くということをやっておりまして、だいたいがやはり元恋人から借りたままの本なのであります(現恋人に借りてる本はみんな本棚に置かないみたい)。これがちょっとおもしろくて、どんな人と付き合っていたかちょっと見えてくるんですよ。ある男性の家には鏡リュウジの占いの本、ある女性の家には勝新太郎の本……。へへへ、この人ロマンチストと付き合ってたのかとかね、ニヤニヤしてしまう。

 しかし、一番酷かったのがH君の家にあった元カノ本。別にその本が酷いわけじゃない。絶対読まないであろう料理本が、彼のブックオフに売る本コーナーにぶっ刺さってたからであります。「この本元カノから借りたままの本なんじゃないの?」と聞くと「うん」とのこと。「で、売るの?」って聞いたら「俺料理本いらないし」と淡々と答える。……まだ捨てるならわかるんだけど売るのかよという。

 堂々としているH君を見ていると当初のロマンチックな借りパクへの幻想は失せ、私の貸した本も売られたりしてるんだろうなと世知辛い気持ちになったのであります。