「2年前とは走りがまったく違うので。本当に全部がガラッと変わったと思います」
その言葉通り、18歳で初優勝を飾った2年前とは、雰囲気も、見ている世界も、すべてが大きく変わっているように感じた。
それほどまでにサニブラウン・アブデルハキーム(フロリダ大)の走りは圧倒的だった。
優勝しても「あと0.03秒だったので……」
福岡・博多の森陸上競技場で行われた103回目の陸上日本選手権。「史上最高レベル」と言われた桐生祥秀(日本生命)や小池祐貴(住友電工)らライバルを一蹴し、男子100mを制したのは日本記録保持者の20歳。課題のスタートはもう一歩だったが、中盤から一気に抜けだすと、最後の10mで2位以下に大差をつけ、向かい風の状況下では日本最速となる10秒02の記録で駆け抜けた。
それでも本人としては不完全燃焼。
「何ともいえないタイムですね(笑)。(9秒台まで)あと0.03秒だったので、スタートがちゃんと出られていればなぁ……というのはあります」
そんな器の大きい言葉からも垣間見えるように、間近で見ていて印象的だったのは走りはもちろんのこと、サニブラウンの全身から発する存在感の大きさだった。
スタート前の入場でも、多くの選手が硬い表情で自身を鼓舞しながら出てくるなかで、ひとり悠然と、笑みを湛えながらスモークの中からゆっくりと登場した。そこに緊張や萎縮はまったく感じられず、いい意味で「勝って当然」というようなオーラが出ていたように見えた。
世界で戦うことを意識したシリアスなコメント
レース後の囲み取材でも、2年前の初優勝の際には無邪気な笑顔やコメントが多かった印象だったが、今年はガラッと変わって世界で戦うことを意識したシリアスなコメントが多く聞かれた。
「アメリカでもっと速い選手たちと走って、ここで自分の強さを見せられないようじゃ意味がないと思っていたので。しっかりレースの本数を重ねていくうえで、集中してこられたのが良かったかなと思います。
世界にはまだまだ化け物みたいな人が多いので、いまのままじゃ全然だめだと思っています。今日の課題をしっかりフロリダに持ち帰って、練習して、万全の状態で9月の世界陸上に臨めればなと思います」
その表情からは勝った満足感よりも、あくまでここは通過点という想いがひしひしと感じられた。