誕生、青春、恋、出産、子育て、老い……。7年のフィールドワークを経て、「ねこの生き方」を解き明かした動物学者・山根明弘さんがねこについての素朴な疑問に答える。
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――ねこと人間はいつどこで出会ったのですか?
ペットとして飼われているネコも街で見かけるノラネコも生物学的には「イエネコ」という同じ種の動物です。『ねこの秘密』では「イエネコ」と書くと読みづらいので、単純に「ねこ」と書いています。「ねこ」も犬や馬、牛などと同様、人間が家畜化することによって生まれた種で、その原種はリビアヤマネコです。
人間とリビアヤマネコが出会ったのは、およそ1万年前のメソポタミア地方(現在のイラクのあたり)だと考えられています。この出会いで特筆すべきは、リビアヤマネコから人間に近づいていったことです。他の家畜動物で、このような例はあまり見られません。といっても、ヤマネコは人間が好きだったわけではありません。人間の集落にある穀物倉庫に集まるネズミを食べにやってきたのです。人間はそれを見つけて、その美しい上にネズミを食べてくれる役に立つ動物として、家畜化することを考えたのでしょう。しかし、リビアヤマネコは人間にたやすく飼い馴らされるような動物ではありません。ですから、家畜化は非常にゆっくりとしか進まなかったと思われます。おそらく生後間もない仔ネコを拾ってきて、人の手によって育て、そのなかから性格がおだやかなヤマネコを選び、交配していったのでしょう。こうして、私たちが現在、「ねこ」と呼んでいる種が作られていきました。
しかし、他の家畜動物が原種から大きく姿形を変えているのに対して、ねこは原種とほとんど体の形や大きさが変わっていません。このことは人間がねこの繁殖を管理しきれなかったことに起因していると考えられます。ねこの自由きままな性格が1万年変わらない姿形に現れているのです。
――気まぐれなのはなぜですか?
それはネコ科動物の狩りの方法に原因があります。ネコ科動物はライオンなどの例外はあるものの基本的に単独で生活し、狩りも単独で行います。従って、自分に必要なことはすべて自分で決定し、単独で行動しなければなりません。集団で狩りをするイヌ科動物のようにリーダーや仲間の顔色をうかがう必要がないのです。少し大げさにいえば、ねこが厳しい自然のなかで生き残っていくために、人間やイヌにみられるような「社会性」は不要です。ねこが気まぐれで、ワガママで、マイペースに見えるのは、このためでしょう。