「戦場における指揮・統率の要諦は何ですか?」
白大将の指揮・統率能力は朝鮮戦争の実戦を通じ証明され、名将の誉れが高い。私は、この点に関して大将に質問をしたことがある。
「大将、戦場における指揮・統率の要諦は何ですか?」
白大将は、次のようにお答えになった。
「私は、朝鮮戦争の終始を通じ、マッカーサー元帥を始め第2次世界大戦で鍛えられたアメリカ陸・海軍の将軍、提督達の指揮統率をつぶさに見てきたが、共通した特徴は次の通りだった。即ち、彼らは、戦争の最中、最前線にも足を運ぶなどして、自らの耳目で部隊の現況をありのままに把握する努力をしていた。
ただし、彼らは前線視察をする時は、兵士を激励することはあっても、直接個別に戦闘指導するようなことはなかった。前線を視察して、全軍に徹底する必要があると認めれば、文書により、全軍に布告するというやり方を採っていた。私にとって、第2次世界大戦を戦い抜き、実戦で鍛えられたアメリカ軍将官達は最高の先生であり、彼らを範として作戦・指揮・統率を学ぶことが出来たのです」
大東亜戦争において、日本陸軍の将星達は、ともすれば現場の状況を無視し、或いは知らないままに教条的とも言える戦争指導を行う傾向があった。白大将は日本の将星には一切言及されなかったが、かかる事実もご承知の上で、私に対し「正確な現況把握努力の重要性」を特に強調して教えて頂いたのだと理解している。
「地下鉄サリン事件」に活きた至言
さらに私はこうも訊ねたことがある。
「白大将、実戦体験の無い我々自衛隊が、有事に本当に戦うことが出来るものでしょうか?」
白大将はこう述べられた。
「朝鮮戦争において韓国陸軍の将兵は、ほとんど実戦体験が無く特別な教育訓練も受けていなかったにもかかわらず、逃亡することも無くじつによく戦ったものだ。陸上自衛隊は、創隊以来の努力の積み重ねで、編成装備はもとより教育訓練も朝鮮戦争当時の韓国陸軍とは比較にならないほど完成されている。
また、私が会った陸上自衛官は人物・能力共に優れた人達であった。実戦体験が無くとも、心配御無用。どうか自信を持ってください。有事に備えるためには、ただ、それぞれの立場で、『日常やるべき事』を地道に黙々とやっておくことです」
白大将はこのように、温かく、励まされるように諭された。私は、その後、東京市谷の第32普通科連隊長として「地下鉄サリン事件」に遭遇し、「サリン除染作戦」の指揮を執ることになったのだが、部下の隊員達はサリンの恐怖をものともせず、汚染された地下鉄駅構内に突入し、除染(サリンの中和・解毒)作業を完遂してくれた。
部下隊員たちのこのような活躍を見るにつけ、白大将のこのときの励ましの言葉が正しかったことを実感したものである。
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福山隆氏も参加した「文藝春秋」4月号の座談会、「『日韓断交』完全シミュレーション」では、元韓国大使の寺田輝介氏、韓国富士ゼロックス元会長の高杉暢也氏、同志社大学教授の浅羽祐樹氏、産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏が登場し、現実的な「日韓のあり方」を詳細に検討している。