ひょっとして私がサイコパス?
サイコパスは共感性を担う領域の活動が低いために、子どもの頃から違和感を感じていると思います。周りの子どもたちは、小さな生き物に対して「ああ、かわいい~」といって寄っていったりします。しかし、サイコパスの子どもにはその感覚が分らないわけですね。
泣いている子どもを見て慰めの声を掛ける人のことを、「なんと無駄なことをしているのだろう」と感じてしまいます。あるいは、いじめられている子どもを見て、「自業自得だ」と思ってしまうこともあります。そのことを周りの子どもから糾弾されることもあり、サイコパシーの高い人は子どもの頃から孤立感を抱えている場合が多いようです。
そこで、孤立感のなかで身を守るために、共感性があるふりを学びながら育ったりするので、人を騙そうとするというのも、実はサイコパスにとっては自然なことなんですね。周りの人からしたら恐ろしいことに思えるかもしれませんが、サイコパスは自身が生き延びていくための戦略を取っているだけ、ということになります。
孤独感を深めながら育ってきたサイコパシーの高い人は、その性質を持った人間が自分だけではないのだと長い時間のうちには気づくと思います。壁をつくったりしなくても、自分は合理的判断が出来るタイプで、共感性は低いけれど他の人が出来ない判断を出来ると認識することで、犯罪を起こすことなく、社会と共存することが出来るようになっていきます。
この本にはサイコパスのセルフチェックリストを掲載しています。簡易なもので完全な診断が出来るものではないのですが、特徴を理解するための一助にしていただければと思います。
トランプ大統領はサイコパス?
サイコパスが存在しているのは何故なのか。進化心理学的に言うと、その遺伝子を持った人に何らかの適応的な意味があるのだと解釈します。サイコパスがいることで集団全体に何らかのメリットがあったと考えるほうが自然ですね。
サイコパスは反社会性とカテゴライズされますから、いまある社会を壊す機能を示しますね。ということは、いまある社会が完全に良いものではなかった場合、既存の社会を脱皮して新しい社会を作る必要がある場合、サイコパスの能力を持った人が非常に活躍する時代が現れます。もしかしたら今が、その時代かも知れません。
サイコパスに希望を寄せすぎる発言に聞こえるかもしれませんが、かっこいいダークヒーローというわけではなく、あくまでそうした能力を持った人々と理解していただくと良いと思います。
古今東西、歴史上の人物はたくさんいますが、現代であれば、ぱっと思いつくのはトランプ大統領。もちろんきちんとお会いして心理試験を行い、診断を下したというわけではありませんし、他国のトップリーダーに対して失礼なことを申し上げているようですが、アメリカの国民が旧社会を打破する存在として、彼のサイコパス的な側面を高く評価して、一票を投じたのかも知れません。
それくらい、アメリカ人にとっては閉塞感を強く覚える社会状況があったのでしょうし、トランプ大統領のような形であっても、旧社会を打破してくれそうな強烈な存在が求められる時代なんだなと感じます。
なかの・のぶこ 1975年生まれ。脳科学者。東日本国際大学特任教授、横浜市立大学客員准教授。東京大学工学部卒業、同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。著書に『脳内麻薬 人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体』(幻冬舎新書)、『脳はどこまでコントロールできるか?』(ベスト新書)、『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(中野剛志、適菜収との共著・文春新書)ほか。