「サッカー選手はいま、大きな影響力を持った、優位な立場にいる。個人的には、もう一切メディアのインタビューを受けなくても、何の問題もないんだ」(ジェラール・ピケ)
『パネンカ』というスペインの月刊誌がある。
テーマは「読むフットボール」。いまスペインでもっとも内容が深い、読ませるスポーツメディアだ。視点が斬新で、世界中のマイナーな話題もたくさん扱っている(数ページにわたって三浦知良の記事を掲載したこともあった)。
昨年12月、この『パネンカ』にバルセロナのジェラール・ピケのインタビューが掲載された。テーマは“ピケが語るジャーナリズム”だ。
その中で発せられた言葉の数々は、メディア業界を揺るがせた。
この号が世に出た後、紙媒体の記者を中心に、多くのメディア関係者が反論した。
“傲慢な意見だ”
“ピケはサッカーに集中するべき”
それもそうだろう。彼らにとってみれば、「メディアはもう必要ない」と言われて面白いわけがない。
しかし、記者たちの反論は、どれも苦しまぎれの文句にしか聞こえなかった。
ピケが述べたことは、ほとんど100%正論だったからだ。
Twitterフォロワー1380万人の説得力
選手と記者のパワーバランスは、ここ数年で劇的に変わった。ピケは言う。
「技術の進歩とSNSの登場で、選手が自分自身で発信できるようになった。もうメディアは必要ない。リーガの何人かの選手はメディアよりも多くのフォロワーを抱えている。『マルカ』はスペインで最も読まれている新聞だけど、ツイッターのフォロワーは400万人程度。これを超える選手は何人もいるんだ」
ピケ自身のツイッター(@3gerardpique)のフォロワー数は、現時点で1387万人を超えている。スペイン最大のスポーツ紙マルカ(@marca)は448万人だ。同国最大の一般紙エル・パイス(@el_pais)でも590万人と、ピケの半分にも及ばない。SNSにおける影響力という意味では、すでに有名メディアすら太刀打ちできないのである。
ピケは計画的にフォロワーを増やしてきた。ツイートを拡散し、炎上させるために、内容や発信のタイミングを考えているという。計算して獲得した1380万人、というわけだ(ちなみに「ツイッターはもう下火だ。いつかなくなるか、どこかに買収されるだろう」とも語っている)。
メディアが選手を必要としているのは変わらない。しかし選手は以前ほどメディアを必要としなくなった。
伝えたいことがあれば、自身のSNSで瞬時に世界に発信できる。新聞のように翌日まで待つ必要もない。発信源としてメディアを使う感覚は、ピケや、さらに若い世代の選手の間では希薄になっている。
「ファンと選手との距離は、これまでにないくらい近いものになった。フェイスブック・ライブにペリスコープもある。SNSがファンとの距離を近づけ、記者は主役の座を奪われたんだ」
選手と記者の間に距離ができはじめたのは、取材環境の変化も影響している。