最高の材料を使っても調理法がダメだと、とんでもない一皿に仕上がってしまう……料理なら1度の傷で済みますが、3か月続く連続ドラマだとそうもいきません。
夏ドラマでいえば『アンナチュラル』で爆上げした株を『高嶺の花』に続いてどーんと落とした石原さとみ(『Heaven?~ご苦楽レストラン~』)や、『デート』で見せたコメディセンスをふっ飛ばした杏(『偽装不倫』)が下手な料理人に捕まった予感。が、店やシェフが変わったことで、見違える輝きを見せる俳優もいるワケで。
そう、TBS金曜ドラマ『凪のお暇』の高橋一生その人です。
「お帰りなさい!」期待に応えた高橋一生
4月~6月期O.A.『東京独身男子』で彼が演じた銀行マンは正直「コレジャナイ」感が凄かった。夜な夜なタワマンの部屋に男同士で集まって「あえて結婚しない」=「AK」とワイン片手に宣言しつつ「恋愛アジェンダ」をPCに記録する……って男性版『セックス・アンド・ザ・シティ』か。微妙に古いわ。
当然、「AK男子」も「アジェンダ」も令和の世には受け入れられず、視聴率も振るわぬまま、ドラマは静かに終了。
主演作で主題歌まで歌った傷は深いかと思いきや、彼はそんなにヤワじゃない。「そうそう、これが観たかった!」という私たちの期待に夏の高橋一生はきっちり応えてくれました。お帰りなさい、待ってたよ!
『凪のお暇』で高橋が演じる我聞慎二は主人公・凪(黒木華)の元彼。職も家もSNSも捨てて立川のボロアパートに引っ越し、人生をリセットしようとする凪への複雑すぎる思いを断ち切れず、彼女の前にたびたび現れ場を引っ掻き回すという役どころ。
凪を取り巻くふたりの男性、慎二と安良城ゴン。これ、キャラクター的には中村倫也演じるゴンに圧倒的アドバンテージがあるんです。なぜならゴンは“寄り添い系”。人間関係で疲れ切った凪に一番必要な共感と癒しを100%与えてくれる存在だから。
「最低なモラハラ男」で終わらせないのが私たちの高橋一生
かわって、慎二のこじらせぶりはなかなか手ごわい。私立の一貫校で育ち、「空気は読むものでなく作るもの」が口ぐせのエリートビジネスマン。社内の女子にもモテモテで、後輩からは慕われ、一見コンプレックスなど微塵もない完璧なたたずまい。が、その心の内はかなり面倒です。
慎二はプライドが高く承認欲求も強いのに、自己肯定感が非常に低い人物。内面に確固たる芯や軸がない分、他人からの評価に振り回されてしまう。だから、自らが支配し、コントロールできる人間=凪を近くに置くことで精神の安定を保とうとして……って、これは臭いますねえ、とんでもないモラハラ臭が。
が、それを「最低なモラハラ男」で終わらせないのが私たちの高橋一生。凪への屈折した想い、大人になりきれない心、素直になれない不器用さ、本当は変わりたいのに変われないもどかしさ等、幾層にも重なった感情のひだを繊細に表す演技で慎二のキャラクターに深みを加え、ゴンのひとり勝ち状態を阻止しています。