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『凪のお暇』クセが強すぎる高橋一生に思わず「お帰りなさい!」と言いたくなる理由

「うまい棒」のフレーバー数を軽く抜く演技バリエーション

2019/08/02
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キャリア30年弱のベテラン俳優が見出した”職人の道”

 高橋一生という俳優の強み、それは「クセや闇を抱えた人物を魅力的に演じられる」こと。

 一口に“クセが強い”と言ってもそのバージョンは多種多様。『カルテット』では小さなことにとことんこだわるビオラ奏者、『名前をなくした女神』では家族にも心を開けないパワハラ銀行員、『民王』では中身が息子と入れ替わった総理を一見クールにサポートする秘書、『僕のヤバイ妻』では母親レベルの年上女性と“夫婦”として暮らす謎の夫etc……と、クセの強さだけで語っても、その演技バリエーションは計り知れない。「うまい棒」のフレーバー数を軽く抜く豊富さです。

ドラマ『民王』制作発表会 ©文藝春秋

 彼が意識的にその引き出しを増やしたのは多分20代の頃。子役からスタートし、10代後半から20代にかけて、わかりやすいイケメンたちにスポットライトが当たっていく中、自分が活きる道をさまざまな現場で静かに模索し、それを会得していったのでしょう。世の中的に“ブレイク”といわれる現象が起きたのは2015年の『民王』ですが、じつはキャリア30年弱のベテラン俳優。一時は事務所の社長に預けられ『相棒』の米沢役・六角精児らが所属する劇団「扉座」で修行して、劇団の舞台に立っていたことも。子役時代にはミュージカル『レ・ミゼラブル』で革命に散る少年、ガブローシュを演じています。

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 クセの強い人間、闇の深い人物をただの“嫌なヤツ”に落とし込まず、そのキャラクターの意外な面やチャーミングな部分まで体現する職人技。圧倒的に芝居が巧いプレイヤーであるがゆえに、中途半端なおしゃれ感満載のドラマでなく、登場人物1人1人の人生がしっかり書き込まれている作品でこそ活き、難しいホンであればあるほど力を発揮する。高橋一生はそういう俳優なのだと思います。

手を振る高橋一生 ©時事通信社

あの役も、この役も……!? 高橋一生ってヤバくて尊い

 そんな私たちの高橋一生がここぞとばかりにクセと闇と純とを混在させた我聞慎二を演じる『凪のお暇』。夏ドラマの中ではかなり遅いスタートでしたが、初回放送の無料見逃し配信数では最高記録を叩きだし、SNSでの評判も上々。特にF1、F2層からは高い支持を得ています。

 個人的には慎二がスナック「バブル」の武田真治ママに「小学3年生レベル」と一刀両断されるシーンと、号泣しながら歩く場面は毎回マストでお願いしたいところ。特に2話で凪にピンタを張られ、渡すはずだった「白い恋人」をボトボト落とし「……ボロボロじゃんかぁ……」と、泣きじゃくってくじらロードを歩くシーンは最高でした。

 

 それにしても、このくじらロード号泣男子と、究極のツンデレを見せて死んでいった『おんな城主 直虎』の政次、ヒロインを王子のように見守り続けた『わろてんか』の栞さま、そしてからあげレモンで騒ぐ『カルテット』の家森さんって全部同じ人が演じているんですよね。あ、あと『池袋ウエストゲートパーク』の逆ひきこもり男・森永も。

 あらためて俳優って、いや、高橋一生ってヤバくて尊いなあ、と思う次第です。

『凪のお暇』クセが強すぎる高橋一生に思わず「お帰りなさい!」と言いたくなる理由

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