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世界一の富裕国・ルクセンブルクには、なぜ高級車も高層マンションもないのか――2019上半期BEST5

地域エコノミストの藻谷浩介インタビュー

note

大国の狭間にあるルクセンブルクと極東の島国日本

――大国の狭間にあるという地政学的な位置を踏まえ、対応した戦略をとってきたわけですね。極東の島国日本にも参考になる部分が多そうです。

藻谷 そうなんです。小国といえど学ぶべき点がいくつもあります。第一に、製造業中心の堅実な国柄だったのに金融でも稼ぐ国へと変化したことです。得意分野を一つに決めつけないという姿勢は、日本の各県にも参考にしてもらいたい。

 第二に、非常に強い独立意識がありながら、自国中心主義をやめたこと。EU統合の核となり独仏を和解させることで、自国の安全と国外マーケットを確保した。じつは、周りの国が平和なほど国の経済が潤う構造は日本も同じです。われわれは何も武器を売って儲ける国じゃないのだから、たとえば中国やインドが戦争をしても何の得にもならないんです。数字は正直で、アジアが安定するほど日本の国際収支は改善します。2017年の日本の経常収支黒字は20兆円を超え、バブル期の倍以上なのです。一番のお得意様はアメリカで、日本が13兆円の黒字でしたが、2番目の中国(香港含む)からも、5兆3000億円も儲けさせて頂いた。3位の韓国からも2兆7000億円の黒字を稼いでいます。

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©深野未季/文藝春秋

――なんと、韓国がトップ3のお客様に入っているんですね。

藻谷 だから、もう少し大事にしたほうがいいんですよ(笑)。ちなみに台湾からは2兆円ぐらい、シンガポールからは1兆5000億円ぐらい稼いでいますが、黒字の稼ぎ手はハイテク部品や機械、金融、観光なので、もしアジアが紛争地帯になれば、こうした黒字は吹っ飛んでしまう。2018年の訪日外国人数は3000万人を超えましたが、4人に1人が中国人で、4人に1人が韓国人です。要するに半分は中国と韓国ですので、彼らの景気がいいほど日本も儲かります。とにかく周りが繁栄したほうが自分も儲かるというのが、日本とルクセンブルクの共通点です。自力では安全保障のできないルクセンブルクが独自の立場を保ちつつ周辺国の関係を平和へと仕向け、その中で世界1の豊かさを享受していることに、日本はもっと学ぶべきでしょう。

 ちなみにシンガポールはまさにルクセンブルクの真似をしていて、ASEANをつくり、その中心に入って、マレーシアとインドネシアを仲良くさせることで安全と経済的繁栄をつくり出しています。もっというと、インドネシアとマレーシアの富裕層にどんどん自国内に不動産投資をさせて家を買わせることによって、シンガポールが攻撃対象にならない構造をつくっているんですね。ルクセンブルクもヨーロッパ中の人が投資しているから、当然攻撃なんてされません。小国ほど国際関係における地政学的な勘が強く、国内格差にも十分に配慮して産業振興を進めているんですね。