昨年のSMAP解散報道のとき、スポーツ新聞を読み比べたら発見が多かった。
スポーツ紙を舞台に情報戦がおこなわれているのではないか?という前提で読んだらとてつもなく面白かったのだ。
たとえば「一刻も早くメリー副社長に直接謝罪するしかない。それがグループ存続への一歩になる。」 (スポーツニッポン・2016年1月18日)という言葉。
これなどは記者の言葉というより「誰か」の思いを伝えていると考えれば途端に味わい深い。
メリー副社長のハワイ入りをめぐる攻防
SMAPの解散が発表されたあとも情報戦は続く。
昨年8月10日におこなわれたという解散の話し合いについて詳しく報じたのは日刊スポーツ(2016年8月15日)。
《まとめ役である中居の気持ちを知ることは、グループとしての最終的な意思確認でもあるため、今月10日に他メンバーも集まることになった。しかしその場に木村の姿はなかった。今月に入って休暇を取り、家族を伴ってメリー喜多川副社長(89)らとハワイに長期滞在していた。木村は既にその時点で休業案を受け入れており、駆けつける必要がないと判断したとみられる。》
「日刊スポーツ」(以下ニッカン)によると、木村拓哉はメリー喜多川副社長らとハワイにいたので話し合いの席には不在だったという。他紙が書いていない情報が載っていた。
すると翌日の「スポーツニッポン」に次の記事が。
「メリー副社長ハワイ入り」(2016年8月16日)
《ジャニーズ事務所のメリー喜多川副社長(89)が、11日にSMAP解散が正式に決定した後、休暇のためハワイ入りしていたことが15日、分かった。》
《一方、木村拓哉(43)は今月初めにハワイ入り。家族とバカンスを過ごすことが目的で、メリー副社長らとは合流していない。》
スポニチだけを読んでる人には「だからどうした」という記事である。
しかし前日のニッカンの内容を知る人はギョッとする。え、副社長はすでにハワイにいるんじゃないの? と。
「木村はハワイで副社長らと滞在していた」というニッカンの記事は、木村拓哉と幹部の近さを想像させる。他の4人のメンバーには判官びいきが発生しやすい。
しかし翌日すぐ「(木村は)メリー副社長らとは合流していない」とスポニチに載った。
つまり、このスポニチの記事は前日のニッカンの火消しなのであろう。一体どちらが正しいかはわからないが、ひとつだけ確実なのは副社長がハワイに滞在している「時間」が新聞によって異なっていること。
こうなるともうスポーツ新聞で情報戦がおこなわれていると考えた方が、楽しい。
ジャニー喜多川社長の「おことば」報道を読み解く
その延長でいくと、今年の1月14日に気になる記事があった。ジャニー喜多川社長の言葉がスポーツ紙で一斉に伝えられたのである。昨年8月の解散発表後、SMAPについて記者の前で初めて言及したのだ。おもな発言をあげてみる。
「みんな元気づいて、やってくると思います。ふと思ったんですけど、SMAPは頭文字をとると『すばらしい・メモリー・ありがとう・パワー』なんだよね。だから、終えちゃっていいんじゃないかなと思っています」
「(事務所からの独立は)それぞれの気持ちに任せます」
「そんなやぼっちいタレントじゃないと思います」
私が興味深かったのは、この会見を受けての各紙の見出しである。ジャニー社長のインタビューのどの部分の言葉を見出しにするのか? 私は昨年の解散報道で「実績のある」ニッカンとスポニチが一番気になった。
「元SMAP4人移籍『任せます』ジャニー社長が初言及 希望を尊重」(日刊スポーツ)
「ジャニー社長が解散後心境初告白 SMAP 素晴らしい メモリー ありがとう パワー」(スポニチ)
「ジャニー社長明言『元SMAP全員独立ない』」(サンケイスポーツ)
ご覧の通り、ニッカンとサンスポは正反対。スポニチは無難なものだった。
となるとここで注目すべきは、「4人移籍『任せます』」「希望を尊重」という部分を1面で使ってきたニッカンだろう。記事では「容認姿勢を示唆した」とも踏み込んでいる。
この記事はそう遠くない将来に起こるかもしれない現実に対し、衝撃を緩和する役割も果たしているのではないか?私はそう読んだ。
スポーツ紙と芸能事務所の関係はずぶずぶだと批判されることも多いが、私はそこに「ある」ものは読む。逆に浮かび上がって見えてくるものもあるからだ。
スポーツ新聞は「行間」が刺激的だ
この会見詳報から10日後、朝日新聞がジャニー喜多川社長の単独インタビューを掲載した。朝日がジャニーさんにいろいろ斬りこんで尋ねているだろうと期待して読んだ。
紙面にはジャニー社長の言葉がたくさん載る。
「幼いころから、お金をとられても、とる側になるよりずっといいと、教えられてきた。だから、僕は何かをもって行かれても幸せだ、と思っているんです」
「自分のやり方を代々続けさせようとは思わない。親の気持ちで教育することは大切だけど、そんな愚直なやり方は、僕らの年代だからできること。みんな、それぞれのやり方で考えていけばいい。ただ、楽しいことが大切なんですよ」
記事のタイトルは「我が子のように育てる ジャニー喜多川社長に聞く」。
なんのことはない。ただのヨイショ記事だった。毒にも薬にもならぬ退屈な内容。
これならスポーツ新聞から漂う「行間」のほうが、よほど刺激的で示唆に富んでいて面白い。
だからスポーツ新聞を読むのはやめられないのである。