朝起きたら首が痛い――。

 そんな時、たいていの人は「寝違えたか!」と思うだろう。

 実際、寝違えたつもりで首を安静にして数日過ごしているうちに症状も消えて行った。

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「やっぱり寝違えたんだな……」

 と納得しているあなた。

 もしかしたらそれ、「頚椎症性神経根症」という“別の疾患”かもしれません。

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「寝違えた」いつものことだと放置していたら……

 大手ゼネコンの経理部に勤めるKさん(38)は、朝起きたときから首から右の肩甲骨の内側にかけて違和感があった。過去に何度か寝違えた経験のある彼は、「またやったか……」とため息をつきながら出社。以前寝違えたときは、時間の経過とともに症状も軽快していったので、それほど深刻には考えていなかった。

 その時期、決算を前にして忙しかったKさん。仕事のことで頭がいっぱいで、首の痛みどころではなかったのだ。

 その日も朝からパソコンに向かっていたが、いずれよくなると思っていた首から肩甲骨にかけての違和感は、逆に次第に強い痛みになっていく。それどころか、右腕にも痺れるような症状が出てきた。午後になると我慢できないほどの激痛に進展していった。

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 以前何度か経験した寝違えとは明らかに違う症状に恐くなったKさんは、上司に願い出て病院を受診した。

 問診にCTなどの画像診断の結果を加味して下された診断は、寝違えではなく、「頚椎症性神経根症」という聞きなれない病名だった。

 人間の背骨は33個の「椎骨」という、中央に穴の開いたドーナッツのような骨が重なってできている。このうち一番上で「首」を構成している7つの椎骨を「頚椎」とよび、ここに異常が起きるのが「頚椎症」だ。

 椎骨の中央の穴(脊柱管)を太い神経が走っていて、そこから枝分かれする細い神経が、腕などの感覚をつかさどっている。

 この「枝分かれした細い神経」が、頚椎の一部に当たって刺激を受け、痛みやしびれを起こすのが「頚椎症性神経根症」だ。

 国際医療福祉大学三田病院整形外科・脊椎脊髄センターの磯貝宜広医師に解説してもらう。

『寝違えた』と思いこむケースが多発 「頚椎症性神経根症」とは

磯貝医師

「“神経根”とは、脊柱管の中を走っている太い神経から枝分かれした細い神経のこと。これは脊椎の隙間から外に出る時に狭い隙間を通りますが、頚椎に問題がなければ、骨が神経根を圧迫することはありません。ところが、骨も経年劣化します。骨の一部がささくれ立って“骨棘(こつきょく)”というトゲのような突起ができることがある。このトゲが神経根を圧迫して痛みやしびれなどの症状を引き起こすのが頚椎症性神経根症なのです」

 疾患名が知られていないわりに、頚椎症性神経根症の患者は多い、と磯貝医師は指摘する。

「当人が勝手に『寝違えた』と思い込んでいるケースが多いのです。いわゆる“寝違え”とは、睡眠中の不自然な姿勢によって引き起こされる首周囲の”筋肉痛”で、神経が刺激されて起きる頚椎症性神経根症とはまるでメカニズムが異なる。でも、頚椎症性神経根症の大半が、最初のうちは強い痛みが出ても、痛い姿勢を避けて安静にしておくと自然に治るので、医療機関を受診する前に治った人の多くが、『あれは寝違えだったんだろう』と思い込んでしまうのです」(磯貝医師)