まるで大学生と話しているみたいだな――。
今夏の高校野球・岩手大会で花巻東のエース右腕、西舘勇陽投手(3年)の取材をしているとき、そんな感覚を抱いた。
花巻東は昨夏の新チーム始動時から「丸刈り」をやめている。西舘投手の髪型はサイドを短くそろえ、トップにかけてややボリュームのある形。短髪の部類ではあるが、いかにも野球部らしい丸刈りとは一線を画している。
取材する立場としては、丸刈りではない高校球児に違和感はなかった。むしろ大学生の野球部員を取材しているような、大人びた印象を受けた。
花巻東の佐々木洋監督は丸刈りを廃止した理由を「野球界で『当たり前』とされているものを見直すため」と説明している。実際に、高校野球をする上で丸刈りにしなければならないルールなどない。
旧態依然とした高校野球部が「脱丸刈り」へと変化
私はこれまで野球部員を「平成最後の珍獣」と呼び、その奇妙な生態を『野球部あるある』(集英社)という書籍にまとめた。部員全員が丸刈り頭。練習中に奇声を発する。厳密な上下関係が存在する。そんな野球部ならではの行動パターンをまとめた一冊は、誰からも期待されることなく刊行されたにもかかわらず、シリーズ累計10万部を超えるスマッシュヒットを記録した。
だが、そんな旧態依然とした野球部像に変化が起き始めている。いま、高校野球界で「脱丸刈り」の風潮がじわじわと広がりつつあるのだ。
今夏の西東京大会でノーシードから準優勝と好成績を収めた創価は、5月から髪型の自由化をスタートさせた。片桐哲郎監督はそのきっかけをこう語る。
「元号が平成から令和に変わって、高校野球も昨年に100回大会(全国高校野球選手権大会)を超えて、新しい時代に入っていくのかなと感じたんです。選手一人ひとりが責任を持って、球児としての誇りを持ってほしいと思いました。また、丸刈りにしなくても変な雰囲気を出すようなヤツはいないという安心感もあったので、思い切ってやりました」
「丸刈りより逆にさわやかになったと思います」
ベンチ入り20人のなかで唯一、丸刈りだった背番号19の齊藤直輝投手(3年)は「大会前の練習試合でふがいない投球をした自分を戒めるため」という決意を込めて頭を刈ったという。髪を伸ばすチームメートを見て、どんな感想を抱いているのか気になった。
「丸刈りより逆にさわやかになったと思います。あと、髪を伸ばすと朝に寝ぐせがつくので、日頃から細かいところを気にするようになると思います」
中学校の教員志望の齊藤投手は、もし自分がいずれ野球部の顧問になれたら「髪型は自由にします。僕の地元にも、丸刈りがイヤで野球を続けない人もいたので」と語った。近年は野球の競技人口が減っている背景があり、埼玉県川口市や高知県では地域をあげて中学野球部の丸刈り強制を禁ずるようになった。