大船渡高校・佐々木朗希の登板回避を受け、選手の未来と勝利、どちらを支持するべきか、多くの指揮者やアスリートが持論を展開し、大きな議論を呼んだ今夏の高校野球。

 議論の対象は野球だけではない。

 陸上選手で、現在はマラソンでのオリンピック代表の座を狙う大迫傑は、著書「走って、悩んで、見つけたこと。」のなかで、彼自身の経験と指導者への提言を語っている。

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大迫傑 ©松本昇大

先生から「そんなにやるな」と言われて

 大迫傑が陸上競技を本格的に始めたのは中学生になってから。地元の中学校には陸上部がなく、当初は近隣の学校の練習に参加したり、陸上クラブでトレーニングを積んでいた。

 2年生になり、大迫の中学にも陸上部が発足。大迫は陸上部に籍を置きながら、2つの陸上クラブにも通い続けていた。

「学校とクラブで、週に3、4回ハードな練習をしていたんです。それを見た顧問の先生から、これでは絶対に潰れてしまうからと、まずは学校の練習をメインにして、陸上クラブはポイント的に行くようにして、うまく棲み分けをしなさいと言われたんですよ。先生がうまくコントロールをしてくれたおかげで、今も僕は大きな故障をすることなく、走り続けていられるんだと思います」

大迫傑 ©松本昇大

 とはいえ、当時は不安が強かった。

「今まで週4回ハードな練習をしていたのが、2回になったら、やっぱり不安ですよ。もっとやれ!と怒られるんじゃなくて、そんなにやるなと言われて。もっとやりたいという気持ちが強いのに、抑えなきゃいけないということで泣いていた記憶があります。それでも中学生にとって先生の言葉は絶対的なものですから、我慢していました」

 今でも覚えているエピソードがあるという。都大会出場のための地区予選。がむしゃらにピークを合わせなくても、いつも通りの走りさえすれば通過できる予選だった。

「だけど、僕はそこでいい走りをしたいと調整をしていたんです。それに気づいた先生が、レース前に30分ジョグをするようにと言ってくれたのを覚えています。今だからわかるんですけど、ひとつの大会にこだわってそこで力を使い切るのではなくて、もっと長期的な目標まで考えて、そう言ってくれたんだと思うんです」