4月16日、川内優輝が日本人として31年ぶりとなるボストンマラソン優勝を成し遂げた。「ワールドマラソンメジャーズ」と呼ばれる世界6大マラソン大会での優勝は、日本でも快挙として報じられたが、今回の結果は、「快挙」という言葉だけでは語りつくせない「ものすごい快挙」だったという。
日本一の陸上マニア集団「EKIDEN News」主宰の西本武司さんに、日本のメディアが指摘していない「川内ボストン優勝の本当の意味」を解説してもらった。
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ボストンで勝つことの「とてつもない価値」
川内の優勝には驚きがふたつありました。まずひとつめは、川内優勝の約1週間後、同じく世界6大マラソンのひとつ、ロンドンマラソンを走るためにロンドンへと行ったときのことです。EXPOやホテルで、ぼくが日本人だとわかると、「カワウチすごかったね!」ってたくさんの人に言われたんです。ランナーだけじゃなく、公園で散歩中のおっさんにまで「カワウチはすごかった」って言われましたからね。
昨年行われたロンドン世界選手権では、川内だけ、ゼッケンに書いてある「KAWAUCHI」ではなく、ファーストネームである「YUKI」と声援が飛ぶ選手でありましたが、まだまだマラソンのコアな世界では知る人ぞ知る存在でした。
やっぱり、ワールドマラソンメジャーズで勝つということは、世界ではとてつもなく価値があるんですね。オリンピックでもない、世界選手権でもない、ワールドマラソンメジャーズなんです。中でもボストンであることが重要なんです。ロンドン市民はそのことをよく知っている。陸上競技やマラソンに対するリテラシーが高いんですよ。ボストンに勝ったことで、今や川内はワールドクラスのブランドにまで成長しました。“ホンダ”や“ソニー”がその名を轟かせたように、極東のいち公務員ランナーは、“世界のカワウチ”なったんです!
もうひとつの驚きは、川内のボストンマラソンでのゴールシーンでした。「よっしゃー!!」と叫びながら、川内が抱きついた外国人がいたのをご存知でしょうか? ブレット・ラーナーさん。僕たちもよく知っている生粋の“陸上オタク”が、そこに映っていたのです。ひとりの陸上オタクが、世界のカワウチと抱き合っている――。こんなに夢のある話は存在するでしょうか。