若い選手たちに背中で「レガシー」を示してきた自負
開幕投手にこだわり「自分しかいないと思っている」とライバルの追随を許さずに君臨。今季まで5年連続6度の大役を務めたことは積み重ねた信頼の証に他ならない。シーズン中は短い登板間隔を好み、ローテーションの中心でいることが、自尊心を支えた。ただ、若手も凌ぐ豊富な練習量を誇った孤高の存在は、一方で、特にここ数年は孤立とも紙一重だったように思う。
成績の下降し始めた近年は、球審の判定に不満を示す態度を見せるなど、別の表情もクローズアップされた。2軍での最後の登板となった試合でも、カメラマン席に向かって中指を立てかみたばこを投げ捨てるなど荒ぶったイメージのまま、マウンドを降りていた。
否定はしないが、そんな悪態ばかりが素顔ではない。若手の成長に目を配り、遠征先では投手、野手、分け隔てなく食事に誘うことも少なくなかった。チームの未来にまで視線を向け、中心を担う若手の成長を願っていた。
取材してきた10年間で数多くの言葉をノートに記してきたが、最も印象深いのは昨年の開幕前に行ったスポニチの独占インタビューでのやり取り。日本人の若手との世代交代の可能性について問うと、ランディ・メッセンジャーという投手の根幹の部分を明かした。
「一度、若手にポジションを奪われるという恐怖を持つと、自信もなくなっていく。そういう意味で、常に練習し続けることで自分は地位を確立してきた。若い選手にも“レガシー(遺産)”として引き継がれていくのであればとてもうれしい。若い選手には、常に自分のポジションを獲る、とガツガツ来てほしい部分もあるけど」
異国の地で、ポジションを奪われる恐怖も感じながら、背中で「レガシー」を示してきた自負がある。
引退を決断させたのは、長年のフル回転で疲弊し切った右肩の状態にある。150キロを超えていたストレートは、いつしか140㌔台に止まってしまった。力勝負で打者を圧倒するパワーピッチャーだった数年前の自分を、最後まで捨てきれなかったのかもしれない。誰よりも球数を投げてきた男の寂しくも、誇れる引き際――。二度と現れないであろう“青い眼の10年戦士”が大切に守ってきた「エース」という看板をついに下ろす。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム ペナントレース2019」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/13703 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。