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これぞ“勝者のメンタリティ” 原采配の凄みを感じたベイスターズ戦、3つのポイント

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/09/19
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「最善策」だった坂本の送りバント

 そして3つめ。最大のポイントが8回の巨人の攻撃、キャプテン坂本勇人の送りバントである。

 1点リードで先頭の亀井がヒットで出塁。鈴木尚広の後継者とも言える代走増田をすかさず送り、エスコバーを揺さぶって牽制悪送球で2塁へ。ここで原監督は迷いなく坂本に送りバントのサインを出し、坂本は1球で決めた。

 今季腕を下げてスピードとスライダーのキレが増しポリバレントクローザーとして活躍中の中川皓太も登板過多でコンディションに不安があり、6月以降支配的な投球を見せている澤村も故障で抹消、リリーフにはやや不安があり点差を広げるためのバントには意味がある。ここで回ってきたのがたまたま坂本だったというだけであり、私も100%賛同する作戦だった。

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 そして坂本が送った3塁増田をやや不調で四球を選びながら凌いでいた丸が前のカードのヤクルト戦から始めていたツイスト打法で犠牲フライでホームに返した。その後丸はあっち向いてホイのように顔が反対方向を向くようなこのツイスト打法でホームランも放ち話題となっているが、この時点ではまだ未完成だった。しかし、反対方向へのフライが飛ぶ可能性は高く前のカードでの神宮でもそのような傾向があったため、計算通りの犠牲フライを放ち点差を広げた。この男こそがセ・リーグで唯一4連覇を経験する見込みとなる、真の支配層と言えるだろう。

 更に気落ちしたエスコバーの甘いボールを叩いて岡本が更にホームランを放ち勝負あり。昨年史上最年少で3割30本100打点を達成し巨人の4番となった岡本にも今季はやや力みがあり、必要以上の大振りと振り上げが目立っていたが8月の上旬にいよいよ修正し去年に近い形となってきており、大事なところで仕事をやってのけた。この成績でも叩かれる時点で、上のレベルの「巨人の4番」になったと言える。

 そうして3点差となってクローザーのデラロサが9回に登板した。デラロサはポストシーズンで直接の対戦相手となる可能性を考慮して変化球を隠すために点差があるので敢えてストレートを多投した。千賀の151キロの速球を叩いて一発を放つなど意外性を秘める柴田のホームランを浴びたものの、最速161キロの速球で押し切ってゲームセットとなった。坂本のバント、丸の犠牲フライ、そして岡本のホームランによる追加点がなさしめたある意味「必要経費」の失点だったと言えるだろう。

 拙著『セイバーメトリクスの落とし穴』でも書いたように、送りバントは多くの場面では不要である。強打者の送りバントも多くは非効率であろう。しかし、この日の坂本のバントは確実に「最善策」だった。岡本のホームランが決勝点であってバントは非効率だ、と言った戯言に耳を傾ける必要はない。一戦必勝の試合を、クックの先発で今永に勝ち切る選択を巨人はした。原監督にも坂本にも迷いはなかったはずだ。開幕2戦目から同様に敵地マツダで点差を広げるために命じた坂本の送りバントがこの伏線としてある。

 野球には流れもメンタルも「ある」。苦手にしていた今永の失投を逃さずに叩いた4番の岡本。彼らの微妙な精神面にも注目してプレーを見ていきたい。

 バントが無意味、流れもメンタルも無意味などと言った浅はかな分析は無視するに限る。通ぶって強打者に送りバントを命じたから凄いというのではない。必要なことを当然のように判断できる監督と坂本に凄みがあるということだ。巨人の王者の野球、何が何でも勝つという野球にDeNAも脅威さえ感じただろう。まさに私が求める王者の野球に凄みを感じた。なお、5月に甲子園で命じた坂本のバントは無意味ではあった。この差をしっかりと感じ取っていきたい。

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