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時代の最前線を映し出してきた「目」
展示はさらに続く。ぎゅうぎゅう詰めのとしまえんプールの様子を撮った大パノラマ写真。歌舞伎公演の名シーンを切り取ったシリーズ。宮沢りえやウラジミール・マラーホフの肉体美を写真に留めたもの。そして、東日本大震災の被災地にカメラを持ち込んで撮ったポートレート群……。
世界はいろんな光景に満ちていて、かくも多様だったかと改めて思う。同時に、これらがひとりの人間によって撮られたものということは、当然ながらその写真家は、すべての現場に居合わせていたのだということにも気づき、愕然とする。これほどの長きにわたって時代の最前線に立ち、時代の証人であり続けていたのだ、篠山紀信は。
20世紀以降の美術を切り拓いた画家ポール・セザンヌは、虚心に排し事物を徹底的に見て、世界のあるがままを描いた印象派の巨匠クロード・モネを称し、こう口走ったという。
「モネはただの『目』だ、しかしなんという『目』であることか!」
同じ言葉を、日本写真界の巨匠にも投げかけたくなる。これほど多彩な光景に触れてきた篠山紀信の「目」は、なんという「目」であることか!