昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

リアルタイム・ノンフィクション東 芝 崩 壊

東芝を解体に追い込んだ三悪人の「言い分」

「血のバレンタイン」を迎えた19万人企業の未来

2017/02/14

  西田の後任で社長になった佐々木則夫は、粉飾決算の実態を調査した第三者委員会の報告書の中で、部下に利益水増しの圧力となる「チャレンジ」を要求していたことが明らかになった。

度々「チャレンジ」を要求した佐々木氏 ©石川啓次/文藝春秋

 チャレンジについて、佐々木はこう主張する。

「社長月例(月に一度、社長と事業部責任者との会合)において『チャレンジ』と称される目標の伝達が行われる場合もあった。その意味合いはコーポレート(本社)からカンパニー(事業部)に対する努力目標であり、その必達が要求されるものではなかった」

「俺は『がんばれ』と言っただけで、不正をやれとは言っていない」

 佐々木は法廷でこう主張してるわけだ。

 しかし関係者の証言によれば、佐々木は社長月例で「会議室の窓ガラスがビリビリ震えるほどの怒声を飛ばしていた」という。優しく努力目標を諭すような雰囲気でなかった。震え上がった東芝の社員は競うようにして粉飾に手を染め、積もり積もった利益の水増しが2306億円に達したのである。

バイセル取引をやめさせなかった罪

 第三者報告書では現場が「バイセル取引をやめたい」と言ってきたとき、佐々木が「会社の業績が厳しいから、今はやめるべきではない」という趣旨の指示を出したことが書かれている。報告書によると佐々木が社長を退任した時点でバイセル取引でかさ上げした利益の合計は654億円に達していたという。

 原告の東芝は佐々木がバイセル取引をやめさせなかったことの責任も問うている。

「社長就任後、バイセル取引において利益のかさ上げが行われていることを認識していたにもかかわらず、これを中止させるための措置を取らず、かえってこれを中止することを妨げる指示を行った」

 これに対して佐々木はこう反論する。

「東芝に入社して以降、代表執行役社長に就任するまで主に原子力関係事業を中心とする社会インフラ事業に携わってきたため、PC事業におけるバイセル取引の導入の経緯について詳細を知るものではない」

「バイセル取引の会計処理の詳細について説明を受けたことがなく、どのような会計処理がされていたのかについては知らない」

「自分の専門は原発であり、それ以外の事業については知らない」と言っているわけだ。しかし内容を知らない人間が「バイセル取引を続けろ」と指示するのはおかしい。

「第三者委員会報告書が間違っている」というのだろうか。

 ついにWHの減損損失を認めて大赤字になった東芝は2016年、穴埋めに優良子会社の東芝メディカルを売却するなど、生き残りをかけたギリギリの戦いをしていたが、この間、原因を作った張本人である西田や佐々木は法廷で「知らぬ存ぜぬ」を繰り返していた。歯を食いしばって耐えている東芝社員がこれを聞いたら、なんと思うだろう。

田中氏は監査法人の要請を拒否

”最先端の技術”を用いた会計処理と弁明する田中氏 ©getty

 裁判記録の中で圧巻は、危機の元凶である米国での原発事業に関する田中久雄の弁明だ。

 原告の東芝によるとWHでは「(福島第一原発事故の後、安全基準が厳しくなったことによる)設計変更、工事工程の遅延等による契約原価総額の見積もりの増額(東芝ではこれを「コストオーバーラン」と呼んでいた)が複数回発生していた」という。

 しかし、社長の田中や最高財務責任者だった久保誠らは平成25年度第2四半期の決算で「コストオーバーランを全額開示せよ」という監査法人アーンスト&ヤング(EY)の要請を拒否。「客観的かつ合理的な根拠を持ち合わせないまま、独自に挽回可能」とし、EYが3億8500万ドルと見積もったコストオーバーランを6900万ドルに圧縮して計上し、利益をかさ上げした。

 裁判で原告の東芝は、田中や久保が行なった会計処理を「米国会計基準に違反していたといわざるを得ない」と断じている。

 これに対する田中の言い分はこうだ。

「東芝は新日本監査法人及び米国EYと協議を行った上で最先端のシミュレーション技術を用いた慎重な検討を経て同期の損益を計上したのであり、WEC(東芝におけるWHの呼び名)が見積もったコストオーバーランを拒否し根拠のないまま原告(東芝を指す)が独自にコスト削減可能性を判断したものではない」

 3年後の2016年3月期の連結決算で、東芝はWHの事業価値を切り下げ2467億円の減損損失を計上した。2013年の時点で、田中が「最先端のシミュレーション技術を用いて慎重に検討した」という6900万ドルと、EYが主張した3億8500万ドル、どちらが正しかったかはその後の歴史が証明している。

 創業113年、連結売上高5兆7000億円、連結従業員数19万人の名門企業が今まさに解体される。その原因を作った3人が会社に訴えられ、法廷で「俺たちは悪くない」と叫ぶ。もはや醜悪を通り越し滑稽ですらある。

 株主から預かった会社を「俺のもの」と思い込み、栄達のために無理な買収を決め、失敗を隠すため部下を「チャレンジ」という名の粉飾に走らせる。サラリーマン資本主義の毒は、名門企業を骨の髄まで蝕んでいた。血のバレンタインデー。「東芝解体」の知らせを聞く三悪人は何を思うのだろう。

「東芝崩壊」では、読者の皆様からの情報を募集しております。

情報提供する