6月27日、東芝の第179期株主総会が幕張メッセで開かれた。

 2015年の粉飾決算発覚から始まり、歴代3社長の辞任、海外原発事業での巨額損失、債務超過転落、そして2018年6月に稼ぎ頭のメモリ事業を売却と、創業以来最大級の危機に見舞われた名門企業の株主総会である。さぞや熱気ムンムンかと思いきや、会場は閑散。日本の資本市場の底の浅さを映し出す寒々とした光景だった。

恒例となった「お弁当、お土産なし」の看板(撮影:筆者)

今年は入口の受付からしてガラガラである

 午前9時30分、海浜幕張駅に到着し、会場へ向かう。2015年の株主総会以来、恒例となった「お土産、お弁当はご用意致しておりません」の看板を持った社員が今年も立っている。かつて東芝は両国国技館で株主総会を開き、株主に焼き鳥弁当を振舞っていたが、粉飾が発覚した2015年以降、「お土産、お弁当なし」が恒例になっている。「お土産、お弁当なし」の告知は株主総会の招集通知にも記されている。「お構いしないので、できるだけ来ないでください」という意味だろう。

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 昨年から会場は国技館から幕張メッセに変更された。東芝は「来場者が増えた場合のキャパシティを確保するため」と説明しているが、都心から遠い幕張にすることで「来ないでください」のメッセージを一段と強めたように見える。

 それでも昨年の株主総会では、憤懣遣る方無い個人株主が幕張まで大挙して押しかけ、それなりの盛り上がりを見せた。しかし今年は入口の受付からしてガラガラである。入口前で株主を捕まえてコメントを取るメディアの数も明らかに減っている。2248億円に及ぶ粉飾決算や、1兆4000億円の巨額損失を生んだ海外原発事業の実態は一つも明らかになっていないが、株主総会の様子をみる限り、東芝危機は去ったかのようである。

綱川社長はまさにサラリーマンの鑑

昨年に続いて株主総会を取材する筆者

 記者は株主総会会場に入ることを許されず、モニターを設えた別室に集められる。定刻の午前10時、「おはようございます」という綱川智社長の第一声で株主総会は始まった。

 粉飾決算、原発の巨額損失に関わった歴代3社長を含む大物が退陣した後、火事場の東芝を支えてきたのが傍流で損失の穴埋めのために売却されたメディカル部門出身の綱川氏である。危機対応において最大の功労者の1人だが、今年の4月、経産省の「推奨」で投資ファンドからやってきて会長兼CEO(最高経営責任者)に就任した車谷暢昭会長に「トップ」の座を奪われ、COO(最高執行責任者)に「降格」された。

 それでも面倒な株主総会の議事を淡々と進めるあたり、綱川氏はまさにサラリーマンの鑑である。

 綱川氏はウエスチングハウス(WH)の破綻処理や、東芝メモリ売却のプロセスについて一通り説明したあと、損失の穴埋めのためにテレビ事業を手がける東芝映像ソリューションを中国家電大手のハイセンス、パソコンを手がける東芝クライアントソリューションを台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下のシャープ、警備関連事業をセコムに売却したことを報告した。日本の消費者にお馴染みの「レグザ」「ダイナブック」ブランドは、すでにアジア企業の手に渡ったのである。

 綱川氏による「事業報告」の後、登場したのが監査委員の佐藤良二氏だ。

「事業報告及びその付属明細書は、法令及び定款に従い、会社の状況を正しく示しているものと認めます」

 もう何年も東芝の監査委員を務めている佐藤氏は慣れた様子で報告した。しかしそもそも佐藤氏は、東芝に「減損隠し」のテクニックを指南していたデロイトトーマツ・グループの大幹部。粉飾の舞台裏を最もよく知るはずの人物に「この決算は正しい」と言われても困る。