何を言っているのかさっぱり分からない
佐藤氏の後に登場したのが新CEOの車谷氏。就任した4月からの3ヶ月で1000人の幹部・従業員と話したという車谷氏が掲げる東芝の未来像は「デジタルを活用した高収益・リカーリング型事業への構造転換」。何を言っているのかさっぱり分からない。
リカーリングとは「売って終わり」の製造業ではなく、作った設備のオペレーション(運営)やメンテナンスで細く長く稼ぐビジネスのこと。「塵も積もれば山となる」とは言うものの、原発、メモリという両翼を失った東芝を浮揚するには物足らない。
しかし車谷氏はデジタルの活用を進めるために「最高デジタル責任者(CDO)」のポストを設け、デジタルトランスフォーメーション戦略統括部を作り、三井物産との共同出資で東芝デジタル&コンサルティングという会社を立ち上げた。どうやら形から入るタイプの経営者らしいが、人工知能が人間を超えるシンギュラリティーが現実味を帯びつつある時代に、いまさら「デジタル」と力まれても、返す言葉が見つからない。
「形から入る」といえば、海外原発事業の巨額損失を教訓に強化するという「プロジェクト審査部」もその類だろう。問題はその人選だ。プロジェクト審査部担当役員はCFOの平田政善氏。平田氏はWHが巨額損失の原因を作っていた時代に米国で同社のCFOをしていた人物である。どうやったら巨額損失が生まれるのか、それをどう隠蔽するのかについて、誰より精通しているから適任といえば適任かもしれないが、佐藤氏の監査委員といい平田氏のプロジェクト審査部担当といい、粉飾事件が刑事事件化されていれば訴追されていたかもしれない人物にガバナンスの一翼を担わせるというのは、いささかウィットに富みすぎた人事ではないだろうか。
黙って東芝から離れて行った株主たち
その後、株主総会は、質問に立った株主が「あなた方は悪くないのに、先輩たちが起こした不祥事から会社を守ってくれて本当にありがとう」と叫び、綱川氏が「叱咤激励してくださる株主様のおかげです」と応じるという心温まる一幕もあり、これといったハプニングもないまま、シャンシャンで終了した。
総会終了後、この日の出席人数が会社から発表された。619名。最後に焼き鳥弁当が振る舞われた2014年が6396人。お土産、お弁当をやめた2015年(粉飾決算が発覚した年)が3178人。「処置無し」と見た個人株主たちは黙って東芝から離れて行ったのだろう。
東芝の株式時価総額は2兆1700億円。日立製作所(3兆7500億円)の約半分、ソニー(7兆600億円)の3分の1以下だが、韓国サムスン電子の33兆4000億円に比べれば、どれも吹けば飛ぶようなレベルでしかない。東芝という日本を代表する大企業が実質解体まで追い込まれた「事件」の真相は、市場にも司法にも裁かれることなく闇に葬られようとしている。
にもかかわらず出席者619名。
これが日本の資本市場の現在位置である。