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VWのイメージに深い傷

幹部の闘争中も排ガス不正問題は収束せず、逮捕者も。©iStock.com

 VWは排ガス不正との戦いの真っただ中にある。同社は違法ソフトウエアの使用をめぐり、これまで米国、カナダなどで200億ユーロ(2兆4000億円)もの和解金、罰金の支払いを命じられている。だが米国の司法当局は、追及の手を緩めていない。米司法省は今年1月にVWのエンジン開発部の幹部ら6人を詐欺の罪で起訴し、フロリダ州で休暇を過ごしていた課長1人を逮捕している。この課長は、「米国で休暇を取るのは、危険だ」という法務部の忠告を無視していた。

 またVWの株を持っていた機関投資家は、「ヴィンターコルンら経営陣が排ガス不正を直ちに公表しなかったために、株価の下落により損害を受けた」として同社を提訴している。株価下落に関する損害賠償訴訟の件数は約1400件に達し、請求額の合計は約82億ユーロ(9840億円)にのぼる。情報開示の遅延をめぐっては、ドイツの検察庁もヴィンターコルンや、ハンス・ディーター・ペッチュ監査役会長に対し、株価操作の疑いで捜査を行っている。

 さらにVWは、欧州のユーザーからも巨額の損害賠償請求を突き付けられる可能性もある。その理由は、同社の消費者対応に、米国とEUの間で違いがあることだ。同社は、民事訴訟の和解案の一環として、違法ソフトウエアが使われた車を購入した米国のユーザー約60万人に対し、車の修理もしくは買い取りの他、全員に1人あたり最高1万ドルの補償金を払うことに同意した。しかし欧州のユーザー約850万人には、補償金の支払いを拒否している。米国の訴訟弁護士は、EU域内の「被害者」を代表した損害賠償訴訟を検討している他、欧州委員会も「VWはEU域内の消費者にも、米国の消費者と同等の救済措置を行うべきだ」として、VWに対する圧力を高めている。

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 VW包囲網がじりじりと狭まる中、ピエヒの爆弾発言とVW幹部の間の泥仕合は、同社のイメージを一段と悪化させている。

 ピエヒの証言通り、ヴィンターコルンらは2015年春に排ガス不正について知っていたのか。それともこの証言は、自分が築き上げた帝国から追放されて、復讐の鬼と化した老人の、妄言に過ぎないのか。人生の絶頂期をとうに過ぎたピエヒは、自分を切り捨てた帝国と他のVW幹部らを、奈落の底への道連れにしようとしているのだろうか。