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「母がむかし、ピアノを教えていたので、ピアノは小さいころから身近な楽器でした。私たち姉妹は、ピアノを主題にした『羊と鋼の森』という映画にもそろって出演しています。そういえば妹がパリに行ったときには、今回の出品作そっくりのルノワール作品が載っている絵はがきを送ってくれたこともありました。絵はがきのように、2人で1台のピアノに向かった経験もあるので、『お姉ちゃんと私みたいだね』って」

 妹が送ってくれた絵はがきに載っていたのは、オルセー美術館にあるルノワール《ピアノに寄る少女たち》だった様子。ルノワールは、ピアノと少女をモチーフにした絵画を、複数描いているのだ。

オーギュスト・ルノワール《ピアノを弾く少女たち》1892年頃  Photo © RMN-Grand Palais (musée de l'Orangerie) / Franck Raux / distributed by AMF

 出品作《ピアノを弾く少女たち》も、まるでピアノを前に姉妹が並んでいるように見えるが、もしこの作品の中の少女たちが上白石姉妹だったとしたら?

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「ピアノの前に座っているほうがわたし、その横で『お姉ちゃん、こうしてよ』と指示しているのが妹ですかね」

 

お名前の由来はひょっとして?

 ときに上白石萌音さんは、ルノワールとともに印象派を牽引したクロード・モネと同じ名を持つ。ひょっとしてモネの存在が名前と関係している?

「名付けの由来のひとつと聞いています。両親とも以前からモネの絵が好きだったことから、私に萌音という名前をつけてくれたそうです。

 そういえば私が小さいころから、家には父が買ってきたモネ作品のレプリカが飾ってありますよ。ひまわりが咲き誇る庭をモネの息子が歩いている《ヴェトゥイユの画家の庭園》です。

 なのでモネには強い親近感を抱いていて、モネの絵を見かけるだけでうれしくなります。学校の授業でモネが紹介されると、勝手に誇らしく感じたりもしていましたね」

 

インターネットでは、描いた人の息遣いまで感じられない

 音声ガイドを聴いてもらいたいのはもちろんだが、それ以前に、美術館へ足を運ぶ楽しさをさらにたくさんの人に味わってもらえたらと願う。

「いまはインターネットで画像検索すればいくらでもイメージを見ることができますけど、実物を目の前にしたときの感動は何にも勝るものですし、画像を眺めるだけじゃわからない筆致や画材の違いも伝わってきます。描いた人の息遣いまで感じられるのが、美術館のよさだと思います。

 個人的には美術館という場所って、そこにただ身を置いているだけで仕事のこともふだんの自分も忘れて、まっさらな気分になれるのが気に入っています。そのうえで作品に目を移せば、作品世界の中の空気を感じたりしながら、想像をどんどん膨らませていけるのもまた愉しい。

 そんなすてきな場をいっそう味わうための一助に、私の担当した音声ガイドがなれたら何よりですね」

 

 今展会場では、上白石萌音さんの優しい声と感情のこもった解説が、モネやルノワールの名品にさらなる彩りと艶を与えてくれるはずだ。

写真=深野未季/文藝春秋