映画プロデューサー・小説家として数々のヒット作を生み出す川村元気にとっての「仕事」とは――。対話集『仕事。』を通じて巨匠たちから学んだことは、「自分から遠い仕事」にチャレンジすることだった。(全3回の2回目/#1より続く)
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角度を変えていろいろな仕事をやる
――『仕事。』の出版以降、一層活動の幅を広げられてきましたが、12人の巨匠から学んだ何かが具体的に活かされたと感じますか?
川村 『仕事。』を経て確かに仕事の成果は圧倒的に上がったし、具体的な結果を出すことができたと感じています。『世界から猫が消えたなら』は映画化もされて結果的にミリオンセラーになり、映画ではアニメーションの企画を始めるようになって、『君の名は。』(観客動員数で日本映画歴代2位を記録)という自分にとっての代表作もできました。『君の名は。』に関しては実写版がハリウッドでリメイクされることになって、プロデューサーをJ.J.エイブラムス、脚本をエリック・ハイセラー(映画『メッセージ』(2016)で米国アカデミー賞の優秀脚色賞にノミネート)という最高峰の2人が担ってくれて、僕もプロデューサーとして参加することになり、海外との仕事も始まっています。そこに関しては『仕事。』で世界を相手にしてきた杉本博司さん、横尾忠則さん、坂本龍一さんらと話せたことも大きなヒントとなりました。
ちなみに映画のプロデュースや小説以外に、今年は映画『ドラえもんのび太の宝島』で脚本家としてデビューさせていただいたり、佐藤雅彦さんらと共同で初監督を務めた短編映画(『どちらを選んだのかはわからないが、どちらかを選んだことははっきりしている』)でカンヌ国際映画祭に行ったりしました。『仕事。』の中でも杉本博司さんが「30代前半までにやることが見つからなかったら、人生でやることはない。自分の原体験みたいなものは、そこまでに出尽くしている」と話していますが、もともと自分の中にあったいろいろなチャクラが一気に開いたような感じです。
この「角度を変えていろいろな仕事をやる」という点は『仕事。』で学んだことの一つで、稀代のコピーライターだった糸井重里さんは『ほぼ日刊イトイ新聞』を立ち上げて、今は腹巻なんかも売っていて、その多彩さには驚くばかりです。他にも詩だけでなく歌詞も書き、絵本も翻訳し、広告のコピーに至るまで、ありとあらゆる仕事を手がけてきた谷川俊太郎さんや、YMOでデビューして、俳優にもトライして、映画のサウンドトラックもやって、その他様々な社会活動もやるという多彩な仕事をされてきた坂本龍一さん、日本を代表するノンフィクション作家の沢木耕太郎さんが60歳を過ぎて長編小説を出版したり、巨匠たちのチャレンジし続ける姿勢に、否応なくパワーをチャージしてもらいました。