苦手なものをテーマにしてきた。3作目は恋愛を書くと決めていた。
――今年はプロデュースした映画が立て続けに公開され、どれも話題になっていますね。8月公開『君の名は。』、9月公開『怒り』、10月公開『何者』。5月には原作の『世界から猫が消えたなら』も公開されていましたし。そして11月に小説『四月になれば彼女は』(文藝春秋)を刊行。『世界から猫が消えたなら』(2012年刊/小学館文庫)、『億男』(2014年マガジンハウス刊)に次いで3作目ですが、小説は2年おきに出すと決めているのですか。
川村 いえ、そんな計画は立てられないので(笑)。ただ、放っておくと3年4年とあいてしまうので、頑張って2年に一度は自分の中に積み残した宿題みたいなものを知るために書こうとは思っています。
――『世界から猫が消えたなら』では「死」、『億男』は「お金」、そして今回は「恋愛」がテーマです。前に「死は避けたいものだし、お金というものも実は苦手だった」と言っていたので、苦手なものをテーマに選んでいるのかと思っていましたが、恋愛は?(笑)
川村 恋愛も苦手なんです。強い感情が苦手なんです。人間の愛情にしろ憎悪にしろ、強い感情が苦手。あと、死とお金と恋愛の3つは、人間がどんなに賢くなっても解決できない問題だと思っています。それで3作目では恋愛を書くと決めていました。ただ、いま大人の恋愛小説って全然売れていないんですよね。
――分かります。だって、私と川村さんが一緒に選考委員を務めていた恋愛小説の新人賞も、いま募集していませんよね。
川村 そうそう、お互い当事者でしたね(笑)。それで「恋愛小説が全然売れてないんですよ」と言われて「え?」となって、20、30、40代の男女、100人くらいに取材したんです。「今どういう恋愛をしてますか」って。そうしたら本当に、びっくりするくらい熱烈な恋愛をしていない。「全然好きな人ができない」とか「彼氏のことをもう好きなのか分からない」とか「結婚したけれど、愛が情に変わってしまった」とか。その時、これは面白いなと思ったんですよ。『ノルウェイの森』とか『冷静と情熱のあいだ』が読まれていた頃って、みんな恋愛をしているのが前提だったと思うんです。だけど今の時代は恋愛をしていないというのが前提なんだと思って。だったらそういう話を書けばいい、と思ったんですよね。
恋愛をしていない時代に恋愛をしている男女を書いてもファンタジーになってしまう。でも恋愛をしていない人でも、恋愛感情が消えたわけじゃないとも思ったんです。きっとどこかにしまいこんでるのではと。じゃあどこに行ったのかを、小説を書きながら探そうと思ったんです。