先の韓国政府による「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」の破棄は、“衝撃的ニュース”として受け止められた。
メディアは「安全保障分野の協力関係の象徴ともいえる協定は維持されるとみていただけに、想定外の事態に衝撃が広がっている」(朝日新聞、8月23日付)などと報じ、政府関係者からも、「一言で言うと愚かだ。北朝鮮を含めた安全保障環境を見誤っている。あり得ない選択」(BSフジの番組での佐藤正久外務副大臣の発言)といった声が発せられた。
「しかし今回の韓国による協定破棄は、首相官邸や外務省にとっては、むしろ“戦略通りのシナリオ”だったと見た方がいいでしょう」
こう語るのは、作家・元外務省主任分析官の佐藤優氏だ。
日本が韓国に突きつけた“ハル・ノート”
「8月15日、日本の植民地支配からの解放を祝う『光復説』の演説で文在寅大統領が、『日本が対話と協力の道にでれば、喜んで手を握る』と述べたのに対して、日本側は、対話の呼びかけを敢えて無視することで、GSOMIAを破棄する方向に韓国側を追い込んだ、ということです。
歴史のアナロジーで言えば、米国が『ハル・ノート』で日本側を開戦に追い込んだのを想起すると分かりやすい。
ハル・ノートとは、1941年11月、日米交渉の過程で、米国国務長官ハルが提示した覚書のことで、日本軍の中国および仏領インドシナからの全面撤兵要求、蒋介石政権以外の政権の承諾拒否など、日本側が到底受け入れられない内容が盛り込まれていました。これが事実上の『最後通牒』となり、日本に開戦を決意させ、12月8日の真珠湾攻撃に至ります。
国際社会では、『最初に攻撃した方が悪い』となります。首相官邸と外務省は、そこを周到に計算して、日本に真珠湾を攻撃させた米国のように、韓国側に“最初に撃たせる”ことを考えていたのでしょう」