中学時代のあだ名は「王子」。「(過保護のため)同年輩の友人との交友の機会を失い、何も言わずとも他人はすべて自分のために手配、援助するのが当然と考えていた」(「弁論要旨」)。そのため、徐々に孤立した。高校受験に失敗し、地方では稀な「中学浪人」を経験する。翌年、八戸市内の高校に合格するもなじめず中退。別の高校に進学するも中退する。年末、「精神的支え」だった実母が乗用車の中で自殺した。「被告人の精神面・人格面に多大な影響を与え、被告人の精神構造、性格を大きくゆがめたことは想像に難くない」(前出の「弁論要旨」)。
平成12年(00年)10月、Aは北海道札幌市中央区内のマンションでひとり暮らしを始めた。医学の勉強をしたいと北海道へ行ったが、「北海道大学医学部に通っている。国家試験に史上最年少で合格した」と嘘を言っていた。その後、短期間で複数の女性と結婚と離婚を繰り返し、そこで暴力や監禁による犯罪性が露呈する。いわば、今回の監禁事件の序章とも言うべき犯行が行われた。
「ハーレムをつくる」と命令
平成14年(02年)、監禁王子ことAは、北海道の21歳、北村舞(仮名)への傷害のほか、19歳の専門学校生、東山未知(仮名)への暴行および傷害、出会い系サイトで知り合った静岡市の17歳、山田里美(仮名)が両親の同意を得て婚姻したように装った有印私文書偽造、同行使で起訴された。
公判記録によると、Aは01年4月末から舞と同居。5月には婚姻関係を結び、このとき、相手の姓を名乗った。「些細なことに言いがかりを付けては手拳で顔面を殴打し腹部を足蹴にするなどの暴行」をし、舞の恐怖心を煽った。5月中旬頃には、「性的奴隷同然」の状態にしむけた。
Aは「ハーレムをつくるからもうひとり呼んでこい」と舞に命令し、6月下旬、舞のアルバイト先の同僚であった未知を転居したばかりの自宅へ連れ込む。舞は未知に、「精神科の医者を紹介する」と言って誘い出したという。Aは未知を酔わせて肉体関係を持った。7月、舞と離婚。その後、養子縁組で次々と姓を変える。そして8月には、この頃Aの家にいた別の女性に貸した金が返ってこなかったために、「いつまで騙されているんだ」と、離婚した舞の左大腿部を包丁で切り、傷害を負わせた(この件がのちに起訴される)。