『これが筒香選手の日本プロ野球で目にする最終打席かもしれない』

 2対1タイガースのリードで迎えた9回、ベイスターズの先頭打者は筒香選手、マウンドには藤川投手。

 tvkで24年間ベイスターズ戦の実況を担当しながら、ここぞという場面で的確な描写に行き当たらない自分を悔い『言葉数を減らし、目の前の出来事を邪魔しない様に』と考えを改めます。フルカウントからの6球目、雨を切り裂く伸びのあるストレート。「空振り三振!」の一言は、素晴らしい勝負に敬意を表し強く丁寧に発しました。

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CS敗退決定直後の筒香嘉智

CSファーストステージ第3戦、9回の放送席を振り返って

 セ・リーグCSファーストステージ、今回私の担当は第3戦。乙坂選手のサヨナラ2ランで放送席にたどり着きました。『ここまで来たら、どちらが勝っても大一番にふさわしい実況を』と殊勝に誓って喋り始めたはずなのですが、9回1アウトになると、いよいよ切なくなります。

「石川選手、通算1000本安打」
「ルーキー伊藤裕季也選手2打席連続ホームラン」
「今永投手1対0完封、炎のピッチャーライナーキャッチ」
「ソト選手、センター、レフト、ライト3方向への1試合3本のホームラン」

 今シーズン、放送席でお伝えできた場面が頭の中を巡りました。

『いかん、まだ終わらないぞ!』と思い直すとロペス選手は粘ってフォアボール。続く打者は宮崎選手。1戦目に藤川投手からライトフェンスに当たる二塁打を放っています。「ホームランが出れば、逆転サヨナラですね」と解説の野村弘樹さんに投げかけた直後、力のない打球はファーストフライで2アウト。それでもタイガースファンの“あと一人”コールは横浜スタジアムを埋めたベイスターズ愛溢れる声がかき消しています。続く打者は、代打乙坂選手ではありませんか。甘くはないと分かっていても連日のサヨナラ弾を期待してしまいますが……2球目のフォークボールはバットの芯を外れピッチャーゴロ。

実況直前の筆者 ©吉井祥博

「阪神タイガース、ファイナルステージ進出!」。一拍の間をいただいた後、これまた丁寧に声を張りました。

 2年前の10月15日、甲子園球場のCSファーストステージ第2戦以降ファンと選手が交したと思っていた『雨の中で行われた大一番で、ベイスターズは負けない』約束は、叶わず……。