2016年12月29日、銀座博品館劇場で開かれた「大成金」。三部制興行だったが、夜の大トリに登場したのが神田松之丞だった。
高座で張り扇と扇子をパンパン、と叩いてから話し出した松之丞が素敵だった。
「みなさんは現在の人間国宝と、未来の人間国宝の目撃者になりましたね」
松之丞の前、ゲストとして人間国宝の一龍齋貞水が上がっていた。この自信満々の話に松之丞贔屓は大喜び。
一瞬で観客の心をつかんでしまう松之丞の魅力は、どのように構成されているのか――。
現代のお客様を前に、どこまで引っ張れるか
――松之丞さんの講談は、まったく古い感じがしません。正月に六夜連続で読まれた『畔倉重四郎』にしても、本人が「ハッキリ言って今日はダレ場です」と言ってるのに、聴かせてしまう。
松之丞 講釈はもともと連続物で、明日もお客さんに足を運んでもらうために、いいところで話を打ち切って、引っ張ることが多いんです。
――「なんとなんと、お時間となりました」と松之丞さんの台詞を何度も聞きました(笑)。
松之丞 そうそう。現代的な感覚だと、すぐに完結するものがいいだろうということで、講釈界でも「連続物じゃないよ」という意見があったりもします。でも、僕は冗長とされる連続物が愛おしくて、愛おしくて。
――長いものであればあるほど、物語に没入できますからね。しかも話が横道にそれ、愛嬌のあるキャラクターが出てきたりするのが、僕としても愛おしいです。
松之丞 ありがとうございます。ただし、アレンジはしてます。現代のお客様を前に、どこまで引っ張れるかという見極めは大切です。僕はその引っ張る駆け引きもすごく楽しくて。
ネタの覚え方と、取り出し方
――それにしても、連続物は10時間くらい話が続きますよね? それを記憶していること自体に驚きます。いま、何席くらいネタを持ってらっしゃるんですか。
松之丞 130席くらいですかね。講談は全部で4500席以上あると言われてますから、ひとりじゃとても覚えきれません。その意味でも、宝の山が眠っているんです。
――新しい話を覚えると、昔、覚えたものを忘れてしまったりはしないんですか? 以前、市川猿之助丈に話を聞いたら、歌舞伎役者の場合、1か月公演の中日を過ぎて翌月の芝居の台本が届いて覚え始めると、今月の台詞を忘れるようになるというんです。
松之丞 面白い現象ですね。それは脳の使い方が違うからでしょう。歌舞伎役者さんの場合、「1カ月完全固定脳」になっている。
――1カ月分の台詞がぴったり入るように、脳が働いていると。
松之丞 そうです。講釈師の場合は、覚えたネタを「一軍、二軍、三軍」に分け、箪笥にしまっておくイメージです。講釈では、独演会などで予め演目が決まっている場合を除いて、その日にいらっしゃったお客様を見て、どのネタを読むか決めます。即戦力として使えるネタは一軍の箪笥で常に取り出しやすい位置にある。でも、滅多に取り出さない三軍のネタを忘れてしまっていることはないですね。