「今回は、嫌な予感がしていたんです。前日に川崎市の職員の方が、公園に設置されている仮設トイレを一斉に持っていってしまって。今までこんなことは一度もなかった」

 台風19号で増水した多摩川上流から流れついた、折りたたみのテーブルを公園の水道で洗いながら話してくれたのは、50代の白髪男性Aさん。Aさんは今回の台風で氾濫した武蔵小杉近くの多摩川河川敷で2年ほど”テント生活”を送っている。だが、今回の台風には今までにない恐怖を感じたという。

記者に話をしてくれたAさん ©文藝春秋

風の音が大きすぎて鼓膜が破れるかと

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「ゴゴゴオオォと今までに聞いたことのないような大きな風の音が鳴り響いて、川の水嵩は普段の3倍以上になって土手のぎりぎりまで迫っていました。濁流で流れてきた大きなゴミは強風で舞い上がっていました。さすがに私も、空き缶を集めるための商売道具の自転車と、仕入れといた中古のカートにテントや食料をくくりつけて、土手を上がって橋の裏まで逃げました。音が大きすぎて鼓膜が破れるかと思った。もし水が橋まできたら歩道橋に逃げようとも考えたけど、足がすくんで動けず、台風が過ぎ去るのを怯えながらただ待っている状態でした。翌日、川辺に戻ると地形が変わっていた。(河川敷で暮らす)他の人の小屋は流されたと聞いている。こりゃ、河川パトロールの人が言っていた通り、『最強クラス』なんだと思いました」

©文藝春秋