透けて見える諸々の「準備不足」
W杯には、日本の国内リーグであるトップリーグに在籍する選手たちが数多く出場した。日本代表としてだけでなく、他国の代表としてプレーした外国籍のトップリーグ所属選手もいる。彼らが一堂に会するような、記者会見のような場を設定することはできなかっただろうか。
彼らがナショナルチームのユニフォームではなく、トップリーグの各所属チームのユニフォーム姿で、リーグの看板を背負って立つ場を作る。そうすることで、今だからこその注目度のもとで、“にわか”も含めたラグビーファンたちにリーグの魅力を訴えかけられたのではなかっただろうか。
だが現実には、トップリーグにからんで報じられたのは、2021年秋の開幕を目指す新プロリーグ構想などについてだ。構想――つまり、現在検討中。
仮に、W杯を本気でラグビー文化定着の最大の好機と捉え、戦略的なロードマップの中に位置づけていたならば、大会閉幕の瞬間に「こんなリーグが始まります!」と声高らかに叫べていたのではないか。
それができず、「いま考えている最中です」と淡々と語るしかない現実。代表選手への報奨金の捻出が喫緊の課題となり、日本代表のテストマッチの予定なども矢継ぎ早に出てこない。その一方で、来年予定されているイングランド戦については、協会の発表前にイングランドのエディー・ジョーンズHCから暴露されてしまったり……。そういうところにも、「準備不足」の内実がどうしても透けて見えてしまう。手ぐすねを引いて備えていたというより、いまになって動き出している印象を拭えない。
「考えて、発言し、行動できるリーダー。そういう存在が絶対に必要」
「これも毎年のことですが、年が明ければいろんなことがリセットされます。特に来年はオリンピックイヤー。今年、ラグビーでこんなに盛り上がったことも、徐々に新しい興奮に上書きされ、忘れ去られてしまうのではないでしょうか。
だから、本当のリーダーであれば現状を憂いてるはずなんです。空気が切り替わってしまう年末年始までのこの限られた時間に、この熱を文化にまで持っていくには、いったい何をすればいいんだろう? って」
この、現状を真摯に憂いている存在が見えてこないことにこそ、問題の本質がある。池田氏の言葉に力がこもる。
「選手たちががんばってラグビー熱が高まった。次にがんばるのは組織です。『よし、ここからはおれたちの番だ』って、動かなきゃいけない。でも、いまみたいに盛り上がっている時に危機感を口にしてアクションを起こすことは、組織の一構成員にはできません。それができるのは、やっぱりリーダーなんです。『おれはこんなラグビー界にしたい』『だから全責任を負ってこれがしたいんだ』『だけど現状ではヤバい』と。そんなふうに考えて、発言し、行動できるリーダー。すべてを背負えるリーダー。そういう存在が絶対に必要だと思います」
現実を知っておくことは、何より大切な「準備」
ベイスターズの球団社長を退任後、サッカー界や大学スポーツなど、変革の意欲に応じる形で、池田氏はいろいろな組織と関わりを持ってきた。その経験を踏まえると、同じような問題が、ラグビー界だけでなく、さまざまなスポーツ界に存在するという結論に行き着く。
変わる姿勢を打ち出しながら、いつまでも変われない組織。
競技界を本当の意味で背負って立つリーダーの不在。
そうした世界に対する考察と、自身の体験、そして貫いた行動哲学は、11月15日発売の『横浜ストロングスタイル ベイスターズを改革した僕が、その後スポーツ界で経験した2年半のすべて』にまとめられた。
実際に読んでみると、正直なところ、すべてがハッピーな内容とは言えまい。それこそ憂う気持ちが強まる。だが、そうした現実を知っておくことは、何より大切な「準備」だ。
東京オリンピックを控え、これからまさに日本がスポーツブームの最高潮を迎えるいまだからこそ、手に取るべき一冊なのかもしれない。
文・日比野恭三