2000年の渡米前から、2019年春の引退直後のロングインタビューまで。この20年で180回以上渡米し、100時間以上、イチローとの1対1のインタビューに臨んできたスポーツライター・石田雄太さんの『イチロー・インタビューズ 激闘の軌跡 2000-2019』が発売中。38編の珠玉のインタビューから、今回は2001年3月、開幕直前のインタビューをお届けする。これからチャレンジをはじめる、全ての挑戦者たちへ——。
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どん底の中、環境を変えるしかなかった
イチロー 僕は、4年間メジャーに挑戦したいと言い続けてきて、そのことは変わっていないんです。動機は少し変わってきたけど、挑戦したいという思いは何も変わっていない。ただ、僕以外のところが少し変わったわけで、それは岡添(オリックス球団社長)さんと(仰木)監督が、首を縦に振ってくれて、FAを待たずに今年挑戦できることになった、ということなんですよね。
契約の瞬間は、当然引き締まりました。メジャーのグラウンドに立つ、ということですからね。世界中の才能を持ったプレイヤーたちが集まってる場所ですから、同じグラウンドレベルに立てるということは野球選手にとってこの上なく大きなことです。最大の武器? それは、何かにトライしていこうとしている自分がいる、ということです。自分では、向こうで今ある状態を試してみたい、という感覚なんです。今の僕の現状ではもっと上は見えてこないですからね。
最初、メジャーに行きたいと思ったのは、もう4年半くらい前ですかね。迷い続けて、どん底にいる自分が必死になって探し求めていたものがなかなか見つからなかった。もがき苦しんでいたとき、これは環境を変えるしかない、と思ったんです。特に意識したのは、96年の日米野球。彼らのスイングを見ていると、今の一打席をものすごく大事にしてバットを振っているように見えました。なんの迷いもなく……自分がやりたいスタイルって本当はあんな感じだったのに、いつの間にか殻に入ってしまって、自分のことが小さく見えてしまってね。ああいう感覚を失っていたのだと思います。率直に、ああ、いいなぁと思いました。
だから最初に行きたいと思ったときは、今ある自分を試す、という感覚ではありません。でも今は、今あるものをぶつけたい、そんな感じなんです。思いきりやって、それでダメならそれまででしょう。能力を出せず、ダメだというのは気分の悪いことですけど。