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「通用するとか、しないとか、何言ってんだと思いますね」メジャー挑戦直前に聞いたイチローの言葉

『イチロー・インタビューズ 激闘の軌跡 2000-2019』

2019/09/03
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――イチローの能力をわかりやすく表そうとすれば、日本での7年連続首位打者、通算打率3割5分3厘という、歴代の大打者と比べても次元の違う傑出した数字を使いがちだ。しかしイチローのプライドは、そんなわかりやすい次元にはない。彼の自信は相対的な結果からもたらされたものではなく、ここまで培ってきた過程が支えているものなのだ。イメージの中に見え隠れする理想を追い求めて苦しんできた、その過程――そういう意味からもイチローのレベルは日本の中で突出していた、と言えるのである。

通用するとか、しないとか、何言ってんだと思いますね

イチロー 振り返れば、7年連続というのはおいても、要するに自分の力が出せない状態でも数字は残るってことですからね。

 でも、日本で成績を残したという自信ではなくて、野球界に限らず、どの世界でもそうだと思いますけど、自分にできることをとことんやってきたという自信を持てたかどうか。そこが重要です。そんな自分がいること、それを継続できたこと、誇りを持てるとしたらそこではないでしょうか。だから、首位打者を獲ったとか獲らないとかということではなく、たとえ2割5分の選手であっても、それが自分の能力を出すために全力でやってきた人間なら、適当にやった3割5分の選手よりもプライドを持って相手に立ち向かえると思うんです。どちらが人間として優秀かといわれると、明らかに前者になるでしょう。

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 よく、通用するとか、しないとか、言いますよね。何言ってんだと思いますね。とても悲しい気持ちになります。野球に限らず、新しい世界に挑戦しようとしている人間に対して、それをやったことのない人間が、通用するのか、って……まったく失礼な話です。

©佐貫直哉/文藝春秋

 なぜ日本の選手に対しては短所を探す傾向があるのに、向こうの選手に対してはその反対なんですかね。メジャーという、すごく大きなイメージのところから来た人間に対しては、ものすごい評価をするでしょ? で、日本でプレーした人間がアメリカに行くときは、子供のような捉え方をしてすごく小さくするじゃないですか。みんな、よっぽど日本の野球って大したことないって意識なんだなぁと思ってしまいます。

 日本のプロ野球ももっと自信を持っていいと思うんです。もちろん、そうでないところもあります。でも、もっともまずいと思うところは、ファンからの見られ方を意識してないところ。ストライクだと思った球をキャッチャーがあからさまにひっくり返ってみせたり、審判を振り返ったり……みっともないですよ。あんなの見て、ファンの人は気持ちいいとは思わないでしょう。すごく気分が悪いです。そういうところは改めたいと思ってやってきましたけど、意識の問題は個人の力ではどうにもならないですからね。逆に誇れるところは、細かいところじゃないですか。緻密さ。日本人が頭を使ってやってきた野球というのは、メジャーにもひけをとらないと思うんです。それはパワーとか、その類の違いをカバーするために自然と身につけていったものなんだと思いますけどね。